(学パロ)






「ない!」


放課後の教室にソラの叫びがこだました。


「ソラ?」

「え、どうしたの?」


教室に戻ってきたばかりだったレンとテルは状況が掴めず呆気に取られる。

同じく戻ってきたばかりだったらしい、彩音、ダイ、ユースケも困惑気味だ。

ソラは悲痛な表情でタッパーの中身を見ていた。
確かあれはソラが持ってきていた手作りのクッキーが入っていたはずだとレンは思い出す。


「…どした、大声出して」


相手を任せた、と言わんばかりの周りからの視線に小さくため息を吐いてからレンが声を掛けるとソラは悲痛な表情で振り返る。


「クッキーがない!」

「クッキーって…ソラが作ってきたやつ?」


たくさん作ったから放課後みんなで食べよう、と昼休みに提案していたものだ。


「売店に飲み物買いに行ってる間に全部無くなってたみたいで…」

「無くなってた、ねぇ…」

「いや…」

「それって…」

「どう考えても…」


彩音の説明を聞きながらレン、テル、ダイ、ユースケはチラリと横を見る。
犯人は明白だ。
今の間、レンとテルは図書室へ、ダイとユースケは職員室へ、彩音とソラは売店に行っていたのだから、教室にいたのは2人しかいない。


「「!!」」


突き刺さるような視線に、背を向けていた響とケンの肩が跳ねた。

おそらくこの場にいるほとんどの人間が分かっているだろうが、残念ながら肝心のソラは気付いていないようだった。

しかし、レンに響とケンを庇う義理など全くない。


「ソラ、それって多分…」

「これは事件だ」

「…はい?」


犯人を告げようとした矢先、ソラの声にかき消される。
聞こえた言葉にレンは気の抜けた声を返した。
ソラは真剣な表情で顔を上げてレンを見る。


「情報を集めて推理しよう!ワトソンくん!」

「ワトソン…」

「ソラがホームズなんだね」

「ほら、頑張れよワトソン」


呆れたようなレンに対して茶化すようにテルとユースケが声を掛ける。
完全に楽しんでいる様子だ。


「まぁ、それで気が済むならいいよな」

「ソラも気合入ってるしね」


ダイと彩音も特に口を挟まずに見守る体制になっている。
レンがいれば大丈夫だろうという考えなのだろう。

レンはもう一度ため息を吐く。
手っ取り早くこのぽんこつ探偵に事件を解決してもらおうと決めた。


「ソラ」

「先生って呼んで、ワトソンくん」


別にワトソンはホームズを先生とは言ってないと思うけど、というツッコミはもう面倒なのでしなかった。


「……センセ、情報なら簡単に手に入りますよ」

「へ?どうやって?」


不思議そうな表情をするソラを横目にレンは相変わらず背を向けたままの2人のうち、背の低い方、つまりケンの方へと声を掛ける。


「なぁケン、クッキー美味しかったか?」

「うん、すっごく美味しかったよ!」


振り返ってそう話すケンの顔は清々しいほどに満面の笑みだ。

素直だ。
心配になるほどに素直だ。


「ケン、なんて単純な…」

「お前はほんとに…」

「いや、いいんだけどさ…」


遠くで幼なじみ3人が頭を抱えていた。
苦労してるなとレンは密かに同情する。

対照的に響の表情が一気に焦ったものに変わった。


「馬鹿ケン!そんなこと言ったら食べたのバレるだろ!……あ」

「響…」


つられるように白状した響に今度は彩音が苦笑いをする番だった。
流石にこれで分かっただろうとレンはソラの方を向く。


「さて…これで推理の材料は揃ったんじゃないですか、センセ」


レンの言葉を聞きながら、ソラの目が大きく見開く。
それと同時に響とケンの顔が青くなる。


「犯人は君たちだなー!!なんで全部食べちゃうの!?つまみ食いの範疇超えてるでしょ!?」

「ごめん、つい出来心で食べたら止まらなくなったんだよ!!」

「ごめんなさいー!!」


ソラの憤りの声と響とケンの謝罪で教室内はますます騒がしくなる。


「ほんと…さっさと謝っとけばまだ許してもらえたかもしれねぇのに」

「変に誤魔化そうとするからなぁ」

「レンもナイスアシストだったね」

「アシストって言うほどなのかこれ」

「3人とも、あんまり騒がしくしちゃ怒られるよー」


残された面々はその喧騒を遠巻きに眺めつつ、やれやれ、とお互いに顔を見合わせたのだった。






030:つまみ食いならヤメテ
       (StrawberryQuartz/苺水晶)




(後でケーキを奢ってもらいました)










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