(学パロ/彩音)
登校時間真っ只中な学校の昇降口。
靴を脱ぎながら、んんっ、と小さく咳払いをする。
どうも朝から喉の調子が少しおかしい気がするなぁ。
風邪引きかけてるのかもしれない、気をつけないと。
「彩音ー、おはよー!」
そう思いながら靴をしまっていると、後ろから声を掛けられる。
声の方向を向けば、明るい笑みを浮かべたソラが私の方へとやってきていて。
ソラの笑顔に私も自然と笑顔になる。
「おはよ、ソラ。あれ、レンくんは?」
「図書室に用があるからって先に。彩音こそ響は?また寝坊?」
「あはは…」
私の苦笑いに相変わらずだね、とソラは肩を竦める。
すると、ふと私の方をじっと見て不思議そうな表情になった。
「どうしたの?」
「…彩音、今喉の調子良くない?」
「え!?」
唐突な問いに驚いた声をあげてしまう。
なんで分かったんだろう。
驚く私を余所にソラはゴソゴソとカバンを漁る。
「はい。これどーぞ」
そう言って出てきたのは赤色…おそらくいちご味の飴玉。
「これ…」
「のど飴だよ」
「いいの?貰っても」
「うん」
遠慮しないでいいよ、と笑顔で告げるソラに私は有り難く飴玉を受け取ることにした。
これで少しはマシになるといいな。
そんなことを考えていた私はまだ知らなかった。
これで終わりじゃないって。
「こんなにたくさん…」
それから、あっという間に時間が過ぎて放課後。
私のもとには気付けばこんもりと山になった飴玉があった。
今日一日、いろんな人が私に飴玉をくれたからだ。
「彩音、これあげるー!」
ケンくんからオレンジ色の飴玉を。
「大丈夫?早く治るといいな」
ダイくんから黄緑色の飴玉を。
「無理はしないようにね」
テルくんから紫色の飴玉を。
「…気休めかもしれないけど」
ユースケくんから水色の飴玉を。
「お大事に」
レンくんから緑色の飴玉を。
みんながそれぞれ、そんな風に私に飴玉をくれた。
しかもどれも喉にいいもので。
「私、喉の調子が良くないなんて誰にも言ってないのに…」
なんで分かったんだろう、と謎は深まるばかりだ。
「彩音」
机で考えてると、後ろから声を掛けられて振り返る。
帰り支度を終えた響が立っていた。
「響。ごめん、すぐに準備するね」
「いいよ、急がなくても。あと、これ売店にあったから差し入れ」
「え…」
差し出されたのは温かいハニージンジャーティーのペットボトル。
目を丸くする私に響は小さく微笑む。
「彩音、今日喉の調子良くないんだろ?」
「なんで分かったの!?」
思わず驚きの声をあげる。
そのままの勢いで今日みんなからのど飴をたくさん貰ったことを響に話した。
「なるほど。その机の大量の飴はそういうことか」
話を聞き終えた響は私の机の上を見遣ると苦笑する。
みんなも気にかけてくれてるんだなー、と楽しそうな響にはその理由が分かってるみたいだった。
私には未だに分からないけど。
「響もそうだけど…なんで皆分かったのかな?私、何も言ってないのに」
「あー…」
少しだけ言い淀んで、それでも勘弁したように響は口を開く。
「彩音、今日仕切りに喉の辺り触ってたから」
「…え」
喉を触ってた?私が?
「やっぱり無意識だった?」
「うん…」
全然気付いてなかった。
そんなことをしてたらみんな気付くし、気に掛けてくれるに決まってる。
なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「私、よっぽどだったんだね…」
悪化してしまったら、歌えない。
心のどこかにあったそんな心配は、無意識のうちに行動に現れてたみたい。
「それだけ彩音にとっては重大なことだったってことだろ。みんなも、俺もそれは分かってるつもりだから」
そう言って、響は笑う。
こういう時、分かってくれる人がいるってとても嬉しい。
「ま、みんなの優しさを噛み締めて、今日はしっかり休むよーに」
「はい」
先生のような口調で話す響に私が素直に返事をすると、じゃあ俺からもこれ、と渡されたのは青色の飴玉で思わず笑ってしまった。
でも、これできっと大丈夫。
優しさが込められたカラフルな飴玉がきっと私の心配なんて、すっかり吹き飛ばしてくれるだろうから。
029:喉に詰まった不安の種
(MilkyQuartz/乳石英)
(次の日にはすっかりなくなってました)
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なんでみんな飴玉持ってるんだとかのツッコミはなしで
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