(学パロ/ソラとケン)
「ほんと、酷いよね…」
「耐えられないよー…」
とある昼休み。
各々が自由に楽しく過ごしている教室の隅で二名ほど落ち込んだ雰囲気を醸し出していた。
ソラとケンだ。
ずーん、と効果音が聞こえてきそうなほどに二人が沈んでいる経緯は至極簡単。
昨日の放課後、甘いものを食べ過ぎたせいで、ソラはレンに、ケンはテルに一日お菓子禁止令を出されていたからだ。
大の甘い物好きの二人にとってそれが食べれないということはまさに生き地獄だったが、憐みはしても手を差し伸べてくれる者はいない。
それが二人のためにならないということを知っているし、巻き添えでレンとテルに怒られたくはなかった。
「……」
しばらくして、ソラは伏せていた顔を上げる。
その瞳は何かを決意をしたように煌めいていた。
「ケン」
周りには聞こえていないであろう声量でソラはケンを呼ぶと一度辺りを窺ってから、サッと机の上に握り拳を乗せケンの方へと滑らせる。
ケンにだけ見えるように開かれた掌の中、そこにはキャンディ包みになっている一口サイズのチョコレートが一つあった。
ケンの目が驚きで丸くなる。
「ソラ、これ…!」
「しっ」
ソラの人差し指を口元に当てる仕草にケンもハッとしたように両手で口を抑えちらりと辺りを窺った。
クラスの皆には気付かれていない。
こっそり食べて、というソラの言葉にケンは素早く包みを開けてチョコレートを口に含む。
じんわりと待ち望んだ甘さが舌に広がり自然と頬が緩んだ。
「これでケンも共犯ね?」
「きょーはん?」
首を傾げるケンに対して真剣な表情のソラは小声で話し出す。
「…私、思いついたの。この禁止令を破る方法」
「え!?ど、どうやって…!?」
ごくり、とケンの唾を飲み込む音が響いた気がした。
緊迫感の増す空気にソラは一度深呼吸をすると続きを話し出す。
「…レンとテルは、『お菓子』禁止令を出したんだよね?」
「うん…!」
「それってつまり…『甘いもの』全ては禁止されてない」
「あっ…!!」
衝撃を受けたようにケンの目が驚きで丸くなる。
その表情にどこか芝居めいた様子でソラは不敵に笑う。
「禁止されたのは『お菓子』だけ…なら他の甘いものは大丈夫だということ。例えば甘いジュースとかね」
「!! いちごミルクとか?」
「そうそう!」
「じゃ、じゃあ…メロンパンとかも…?」
「大丈夫だよ!だってあれお菓子じゃなくてパンだもん!どこかの女王だって『パンがなければお菓子を食べればいい』って言ってたくらいだし完全に別物だよ!」
先程の鬱々とした空気はどこに行ったのか。
筋道の立たない理屈を意気揚々と語るソラとケンの表情は明るく、希望に満ち溢れているようだ。
「そもそも!お菓子って主食以外の甘いもののことを言うんだよ!じゃあ私たちとってそれは違うよね!?」
「そうだそうだ!俺たちにとっては主食だー!」
「そうだそうだ!だから別に甘いもの食べてもこれはお菓子じゃないよね!」
「ねー!」
次第に盛り上がっていった会話を止める者はいない。
いない、が聞いてる者がいないわけでもない。
盛り上がる2人は気づいていない。
その会話を遠くで聞く存在を。
「全く…すごいな。あいつら」
「執念だよね」
「どうする?テル」
「まぁ、とりあえずまずやることは決まってるよね、レン」
2人が怒られるまであと30秒。
028:その血には抗えず
(Bloodstone/血石)
(こういう時ばかり頭が回る)
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禁止令の期間が伸びました
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