(流星)








「『あなたにとって絶対に必要なもの』?」


彩音の言葉を響はきょとんとした顔で復唱した。

バンドの練習が終わり、彩音を送っていく帰り道。
その道中でふと、彩音が響にそう質問したのだ。


「何か…心理テスト、みたいなやつ?」


未だ不思議そうな顔で尋ねる響に小さく笑いながら手を振る。


「違うよ。昨日テレビで、そんなインタビューをしてるのを見たの」


だから響はなんて答えるのかなって思って、と答える彩音に響はようやく納得する。


「へぇー…ちなみに彩音は?」

「私?私はね、真っ先に思ったのは歌だったの」


歌がなければ今の自分はシューティングスターに入ることも、響に出会うこともなかった。


「歌が始まりだったと思うんだ。だから、今までもこれからも…ずっと絶対に必要なものだよ」


そう真っ直ぐに語る彩音に響は目を細めて笑う。


「彩音らしいな」

「そうかな?…じゃあ、響は?」


彩音は少しだけ照れたように笑ってから改めて響に尋ねた。
その問いに響は顎に手を当て少しだけ真剣な表情で考える。


しばらくして、困ったように苦笑した。


「駄目だ、ありすぎて絞れない」


その言葉に彩音はぱちくりと目を瞬かせたあとくすりと小さく笑う。
なんとも響らしいなと思ったからだ。


「じゃあ、絞らなくていいから教えて?」

「そうか?じゃあ…まずは音楽」


うんうん、と彩音は頷く。
確かにそれは響に絶対必要だろう。


「次はギター」


分かる分かる、彩音は更に頷く。
響を表すと言ってもいいほどの大切なものだ。


「で、シューティングスター」


だよね、と彩音は更に深く頷く。
彩音にとってもそれは絶対に必要なものだから気持ちはよく分かった。


「あと…」


まだあるらしい。
次は何か、彩音は予測してみる。


(どれも音楽関係だから…私と同じように歌、とかかな?)


そんなことを考えている彩音をよそに響は言葉を続ける。



「彩音」

「……え?」


思いがけず名前を呼ばれて彩音はきょとんとした表情で響を見た。


「音楽があっても、ギターがあっても、シューティングスターのみんながいても、彩音が歌ってくれないと意味がないから。彩音が絶対に必要だ!」


そう響は明るい笑顔で告げた。


嘘偽りのない真っ直ぐなその言葉はもし誰かに聞かれていたら惚気にしか聞こえないだろう。

響は気付いているだろうか。
いや、気付いていたらきっとこんなことは言わないと彩音は知っていた。

だからこそ、それは紛れもない響の本心なんだと分かり、頬が赤くなるのをどう頑張っても止めることは彩音には出来なかった。


「え、えっと…その、ありがとう…光栄、です」


真っ赤な顔をしながら彩音はなんとかそう返す。
対して響は何か変なこと言ったかなと不思議そうに首を傾げた。

その数秒後。


「〜っ!!」



自分の発言を思い返してようやく、とんでもないことを言っていたと気付いて、響の顔は一気に赤くなった。








026:必要不可欠な存在=お前
        (Prehnite/葡萄石)




(その、変な意味じゃ…!いや、嘘じゃないし間違ってはないけど!そうじゃなくて…!)
(わ、分かった!分かったから!)






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