(雨)
抜けるような青空とはこういうことを言うのだろうか。
雲ひとつない晴天を見上げながら彼女はそう考える。
先程までずっと雨が降っていたのに。
彼女の曙の空のような短い髪も地面もまだ降っていた名残を残すように濡れているにもかかわらず、空にはその面影は全くなかった。
その眩しさに彼女は薔薇色の瞳をそっと細める。
「何してんだ?」
そんな彼女に長めの銀髪を一つに縛った男が声を掛ける。
青紫の瞳が不可解そうに彼女を見ていた。
彼女は男の方を向いてなんでもない風に笑う。
「んー?いい天気になったなぁって。通り雨でよかったね」
「…そうだな」
「…そういえば私さ、願いがあるんだよ」
唐突な言葉に、銀髪の男は怪訝そうな顔で彼女を見た。
「あ?突然なんだよ」
「例えば、美味しいもの食べたい」
男の問いを完全に無視して彼女はそう言葉にする。
聞けよ、と男は不機嫌そうに呟く。
「好きなだけ寝たい、綺麗なものが見たい、もっと強くなりたい、欲しいもの全部買いたい、行きたいとこ全部行きたい、やりたいこと全部やりたい」
つらつらと一息続けられる言葉に男は眉を寄せため息を吐く。
「…欲張りすぎだろ」
「願い事は口に出さないと叶わないんだって聞いたよ?」
彼女はにやりと得意げに笑って答えるとあんたは?と尋ねた。
尋ねられた男は一応は考えてくれているのか目を伏せる。
「……とりあえず風呂に入りたい」
「あははっ、結構濡れたもんね!」
楽しげに一笑してから彼女は再び空を見上げる。
「でもさ…これだけ願い事を持っていても全部はきっと叶わないんだよ」
「……」
「叶わないから、人は恨みや妬みの感情を持ってしまうんだろうね」
彼女はそっと掌を前へと突き出す。
空から落ちてくる何かを受け止めるように。
今日がただの通り雨でよかった、と思う。
「皆、一つ叶ったら満足してくれたらいいのにね」
ぽつりと呟かれた言葉は憂いを帯びているように思えて、男は一瞬言葉に詰まる。
「…おめぇ、」
「ま、無理な話ってことだよねー」
そうなったら仕事なくなるし、と続けた彼女に先ほどの空気はもうない。
彼女は数歩、男の先へと進む。
「ちなみに私は今現在一つは叶ってるって話」
彼女の言葉に男は目を丸くする。
何が叶っているのかさっぱり分からない。
「…は?何が?」
「あはは、黙秘でお願いしまーす」
「四季、てめぇな…」
微かに怒気が含まれている声音を完全に無視して四季と呼ばれた彼女はさて、と振り返る。
「帰ろ、壱儺。寄り道でもしてさ」
そう言って四季は目を細めて笑った。
022:空の下を一緒に歩きたい
(Turquoise/トルコ石)
(それはささやかで大切な願い事)
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設定を作ってるもののなかなか書かない話 第二弾
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