(花風)










「…生まれ変わっても魂は同じなのかな」


隣からぽつりと呟かれた言葉に蓮は読書をしていた手を止め、空の方を見た。
読みかけの本を開いたまま、難しい顔をしている。


「…そんなことが本に書いてあったのか?」

「あ、声に出しちゃってました?そうなんです。魂の色は例えどんな姿になっても同じだって」

「へぇ、魂の色ね…空はどう思うんだ?」


蓮の質問に空はきょとんとした表情になる。


「私ですか?」

「そう。一番考えやすい立場だろ?」


確かに、と先ほどより悩んだ表情で考える空を楽しげな様子で眺める。
やがて、答えが出たのか蓮へと顔を向ける。


「私は…私自身のことをソラであってソラじゃないと思ってます」

「うん」

「でも…今もソラの時も、甘いものは好きだし、幽霊は怖い、無鉄砲なとこだって変わってない自覚はあります。そういうとこが魂が変わらないってとこなんですか、ね?」


よく分からなくなってきました、と空はソファの背もたれに身体を預けた。
そして蓮へちらりと視線を向ける。


「じゃあ、蓮先輩はどうなんです?」

「俺…?」

「先輩だって考えやすい立場、のはずです」

「…ま、そうだな」


魂ね、と蓮は目を伏せる。
少しの静寂が部屋に訪れた。


「…全く同じ魂とは思わない、かな」


少しして呟かれた答えに空は目を丸くする。


「そうなんですか?」

「例えば、それ」

「それ?」


蓮が指指したのは、今、空が手に持っている本だ。
厚さもそこそこあるそれは、ソラが進んで読むことはおそらくなかったもの。


「変わらないのなら、空は今も本読まないだろ」

「あー、そっか。そうですね」


空は納得したようにぽん、と手を叩いた。
その仕草に微かに笑いながら話を続ける。


「もし、元の魂は同じだとしたら、絶対に変わらないことっていうものがあるのかもしれない」

「絶対に変わらないこと…」

「それでも、少しずつ変化していってたその魂は違うものになるんだと、俺は思う。同じ青でも、濃淡で名前が変わるみたいに」


結局上手く説明出来ないな、と蓮は肩を竦めた。
そんな蓮に空は首を横に振る。


「ううん、分かった気がします。だから、私はソラであってソラじゃないって改めて納得出来た気がする。流石、蓮先輩」

「なら、よかったけど…」


それに、とソファにやってきた蓮の飼い猫を抱き上げながら空は蓮を見る。


「もしかしたらいつかの私じゃない私は幽霊苦手じゃなくなってるかもしれないですね!」

「…うん、そうだな」

(もしそうだとしても相当先だろうな)


何故か自信満々な空には少しだけ呆れながら蓮はそう思った。


「あ、ごめんなさい。すっかり読書を中断させちゃってましたね」

「別にいいよ。これはこれで面白かったから」


気にしてない様子の蓮に、ほっとしたように息を吐いた。
その優しさは蓮が変わることのないところなんだと空は思う。

抱き上げていた猫を下ろしながら、言葉を紡ぐ。


「私、話を聞いて、自分の魂はこれだけは絶対に変わらないなって確信したんですよ」

「何を?」


蓮の問いに空は満面の笑みを浮かべる。


「ただ一人を好きになること」

「!」


その言葉に蓮は一瞬目を見開く。
そしてすぐにその瞳を細めて笑った。


「俺もだよ」










020:混合魂

      (Unakite/緑簾石+他鉱物)





(そうやって私は形作られていく)





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