(泥棒)
静かな森に相応しくない破裂音と金属音が響いている。
やがて複数回聞こえたその音は止む。
「ふぅ…」
再び森に静寂が訪れる頃、銃を構えていたソラは腕をそっと下ろし、微かに一息吐いた。
「…的に当たるようになってきたな」
ソラの射撃訓練を見ていたレンは感想を述べる。
その言葉にソラは微かに苦笑した。
「なんとかね。でも、的の真ん中に当たるようにしたいところだよ」
そう言いながら、ソラは的をじっと見つめた。
放った銃弾は的に当たっているものの、狙った場所ではなくあちこちに散らばっている。
これでは実力で当てたとはっきり言える気がしなかった。
「ま、訓練あるのみだろ」
「そうだね。頑張ろっと」
改めて決意して新しく銃弾を込めていると、ふとした疑問が浮かんでその手を止める。
レンがその言葉と馴染みがないように見えるからだろうか。
「…レンもこうやって上手くなっていったの?」
刀の扱いとか、と続ければ少しだけ驚いたような表情を返される。
「まぁ、そうだけど…突然どした?」
「だって、レンって最初からなんでも出来てそうな感じするから」
「それはまたずいぶんと高い評価だな」
そこまで完璧じゃない、とレンは小さくため息を吐く。
「そうなんだ…」
あんなにすごいレンもこんな風に苦労していた時があったのかと思うと不思議な気分だ。
だから聞いてみたいと思った。
「ねぇねぇ、レンはどういう風な訓練したの?」
「俺?」
微かに目を丸くして聞き返すレンにソラは頷く。
「何か参考になるかなって」
「………」
何かを考えるように目を伏せるレンに対しソラは期待に満ちた目で答えを待った。
やがて、レンはゆっくりと口を開く。
「…大型の肉食動物相手に動いたり、とか…」
「……ん?」
「…複数人いた山賊を一人で叩きのめしたり、とか…」
「……えっと?」
ソラは一瞬言い方を間違えてたのかと思い、自分の発言を思い返す。
おかしなことは言っていなかったはずだ。
「…訓練の話、だよね?」
「訓練。死ぬ気でやった」
どう聞いてもそれは訓練じゃなく実戦だと思う。
レンの独学なんだろうか。
それともそれをしろと言った人がいたのだろうか。だとしたらとんでもない無茶をさせている気がする。
浮かんだ言葉の数々は淡々と話すレンを見ると口に出すことは出来なかった。
一通り話し終えて、レンは再びため息を吐く。
「話しといてなんだけど…俺のは、参考にならないと思う。つーか、するな」
「うん、大丈夫。出来ない」
レンの努力がすごかったんだということだけはよく伝わった。
「ま、ソラは最初に比べて良くなってるから焦る必要はないよ」
「! うん!」
レンの励ましにソラは嬉しそうに笑顔になった。
「よーし、最後にもう一発だけ!」
やる気に満ち溢れた様子でソラは銃を構え、銃弾を放つ。
破裂音が森に響いた。
「「あ」」
そして、二人は同時に声をあげる。
銃弾は的を大きく外れ、一本の樹の幹に傷をつけた。
妙な沈黙が辺りを包む。
「……最初に比べたら、良くはなってるんだけどな」
「…はい」
呆れたようなレンの声に、返事をしながらソラは乾いた笑みを浮かべたのだった。
019:少しずつ、強くなる
(Calcite/方解石)
(めげないからね!)
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