(学生)









見上げた空は雲ひとつない澄み切った青だった。


「………はぁ………」


とある空き教室の窓でそんな空を見上げながらダイは一人大きくため息を吐いた。
今は綺麗な空を見て喜べる気分ではなかったが、心は穏やかになっていくような気がした。


「ダイ」

「! テル…」


後ろから名前を呼ばれ、ダイはびくりと肩を震わせた。
振り返った先にいたテルは挨拶するように軽く手をあげ、ダイの隣に並ぶ。
ダイと同じように窓から空を見上げわぁ、と声を上げた。


「空綺麗だね」

「…うん」


そしてテルは一度ちらりと様子を窺うようにダイへと視線を移した。


「…落ち込んでる?」

「ん、そうだな…少し」


ダイの返答にテルは少しだけ困ったような、呆れたような笑みを浮かべ窓から背を向ける。


「全く…ダイは優しいんだから」

「…そう?」

「怒り慣れてない」

「まぁ…」


否定することの出来ないダイは苦笑いしながら曖昧に返した。


「…ダイは悪くないよ」


率直な言葉にダイは微かに目を見開く。


「……」

「それは2人も分かってる」


穏やかなテルの言葉を聞きながら静かに空を見上げた。
相変わらず雲ひとつない青空だ。
ダイはもう一度ため息を吐く。


「でも、もっと穏便な止め方があっただろうなって」

「どうだろう、もっとひどくなってたかも」


僕が止めたとしてもね、とテルは肩を竦めた。
そして、教室のドアを一度見遣る。


「ところでさ、ダイに言いたいことがある人達がそこにいるんだけど」

「え!?」


テルの言葉にダイは改めて振り返り教室のドアの方を見る。
するとドアの影からケンとユースケがどこか気まずそうに顔を覗かせ、教室に入ってきた。
ダイに戸惑いの表情が浮かぶ。


「ケン、ユースケ…あの、」

「ごめんなさい!」
「ごめん」

「……え、」


何かを言おうとするよりも前に2人同時の謝罪にダイはぽかんと口を開ける。


「俺たちが喧嘩やめないせいでダイを怒らせちゃって…」

「…嫌な思いさせて悪かった」


素直な反省の言葉を述べる2人にダイは慌てた様子で手を振った。


「いや!あの、俺の方こそ大きな声出してごめん。それで、その…仲直りはした?」


その言葉にケンとユースケは一度顔を見合わせる。


「…ケン、喧嘩の原因って…」

「なんだったっけ?忘れた!」

「えーと…仲直りということでいい、のか?」


ほっとした表情になったダイを見てテルはほんと優しいんだから、とくすりと笑う。


「それにしても…止めても収まらない喧嘩にキレた人が反省ってなかなかないよねぇ」

「「それな」」

「3人とも……」


苦笑を返しながら、ダイはもう一度空を見上げる。
澄み切った青空を今度は綺麗だと思えた。






017:優しい青に包まれて

      (Larimar/曹灰針石)




(荒ぶった心も落ち着いていく)





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