(学生/ユースケとダイ)
「おはよう、ユースケ」
「……はよ」
前を歩くユースケの姿を見つけ後ろから挨拶すれば、不機嫌そうな声が返ってくる。
朝は機嫌が悪いのはいつものことなのでその反応に不平を感じることはないが、振り返った時にユースケが見せた眉間の皺が今日はそれだけではなさそうだとダイは理解した。
「…なんかあった?」
「……別に」
「そう」
(また家族の誰かと喧嘩したかな…)
イライラしているのは明らかだったが、ダイはそれ以上聞かないことにした。
そっとして欲しいこともあるだろう。
「…大したことじゃねぇから、気にすんな」
素っ気なく言っていてもどこか相手を気遣うようなユースケの言葉にダイは笑みを浮かべる。
「分かった…あ、そうだ。ユースケ、オレンジとレモンとぶどうどれがいい?」
「…?レモン」
「ん、ちょっと待って」
唐突なダイの問いにユースケは不可解そうにしながらも質問に答える。
答えを聞いたダイはごそごそとポケットを漁り目当てのものを取り出した。
「はい」
そう言って取り出したのは鮮やかな黄色の飴玉。
ユースケは怪訝そうにその飴玉を見つめる。
「…なんで飴?俺はケンじゃねぇぞ」
ケンなら確かに大喜びしそうだなと思いつつ、ダイは苦笑しながら説明する。
「知ってるよ。でもこういう時は甘いものかなって」
「こういう時、ね…」
微かに呆れたようにしながらもユースケはその飴玉を受け取った。
そのまま袋から取り出して口へと含む。
舌で転がせば、じんわりとした甘さと微かな酸っぱさが口の中に広がっていく。
「あま…」
「まぁ、飴だしな」
そうしてしばらく黙って飴玉を転がしていたユースケがぽつりと呟く。
「…ダイ、」
「ん?」
「…サンキュ」
その言葉とともに苛立ちが少しだけが減ったのが分かってダイはどういたしまして、とまた小さく笑った。
001:イライラ緩和剤
(Citrine/黄水晶)
(…飴だけのおかげじゃないと思うけど)
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