(学パロ/レンとソラ)










不測の事態に焦るどころかため息が出るのは、他人事のように思っているからだろうか。


「…どこだ、ここ?」


人気のない見知らぬ公園に辺りを見渡しながら呟く。
そもそも、俺は今学校の図書館で本を漁ってたわけで。
本棚で目に付いた本を手に取り、少しの間その場で読み耽って、ふと顔を上げればここにいた。
外に出た記憶など一切ない。
直前まで手に持っていたはずの本もない。


「どうなってんだ…」


見覚えのない建物の多さに、おそらく近所ではないことが分かった。
どうやって帰るんだよ、これ。


「おにいちゃん、どうしたの?」


とりあえず方法を考えていると、突然声を掛けられつられるようにそちらを向く。
そこで俺は目を見開くと同時に、ようやくこれが不可思議な現象なんだと理解した。

視線の先には1人の少女がいた。
まだ幼い、5歳ほどに思われる少女。

それだけならまだ驚かなかった。


「な、んで…」

「おにいちゃん?」


そう言って不思議そうに首を傾げた少女の髪と瞳は鮮やかな紅色だった。


俺はこの紅を持つ人間を1人しか知らない。

…そういうことかよ。


「…俺は、ただの暇つぶし。お前はなにしてるんだ?」


少女と視線を合わせるようにしゃがんで逆に問いかける。
今の季節がいつなのかは分からないが、決して寒くはない気温に感じる。
それでも少女は長袖、長ズボンと決して肌を晒さない服を着ていて、それが隠すためだということもすぐに分かった。

(あんな状態だったからな…)


俺の考えなど気づきもせずに、少女は一瞬きょとんとしたあと楽しそうに笑った。


「わたし?わたしはね、あそんでるの!」

「1人でか?」

「そうだよ」

「……寂しくないのか?」

「寂しい?」


少女は首を傾げた。これが当たり前すぎて寂しいという感情が分からないんだろう。
それに気づいてしまったらきっと生きられないから。


「なんでもない。忘れてくれ」


俺に、何か出来るわけじゃない。
何も出来ない。
それでも、

ほんの少しでも救うことが出来たなら。


「I wish you all the best in this hard time.」

「? なぁに、それ?」

「おまじない。いいことがたくさん起こるように」

「ほんと?ありがとう、おにいちゃん!」


そう言って嬉しそうに笑った少女の笑顔は見慣れたものと同じだった。




「レン?」


名前を呼ばれてはっとしたようにそちらを見る。


「…ソラ」


いつの間に来たのかソラの姿があって。
気づけばそこは公園ではなく、学校の図書館。
手には開いたままの本。


「どうしたの?なんかぼーっとしてたよ」

「あー、別に」

「そう?…あ、それ洋書なんだね、難しそー」

「え」

自分はそんな本を読んでいたのかと開いたままのページに視線を落とす。
ふと、とある一文が目に留まる。


「…I wish you all the best in this hard time.」


先ほど少女に言った言葉がそこには載っていた。
俺は白昼夢でも見てたんだろうか。
じゃなきゃあんなこと起きない。

そう結論付けて本を閉じようとすれば、ソラが驚いたように固まっているのに気づく。


「どした?」

「その言葉…」

「…さっきのか?」

「前に言われたことがある気がする。いいことがたくさん起こるようにっておまじないに」


その言葉に俺は瞠目した。


「レンに会うよりも前だったと思うから、誰に言われたのかは覚えてないんだけど…」


困ったように笑うソラに俺は返答出来ずにいた。


「でも…おかげでいいことたくさん起きたよ」


そう話すソラの表情は幸せそうな笑顔だ。


「…よかったな」


俺の自己満足は決して無駄ではなかったらしい。
それが分かっただけでもう十分だった。






015:記憶連鎖

      (Elestial/骸骨水晶)




(心の何処かで繋がり続いていくもの)





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