(泥棒)
その昔、とある街に太陽のような明るさと華やかさを持つ美しい娘がおりました。
貴族の生まれである娘はたびたび屋敷を抜け出しては街を見て回っていました。
そして、あるガラス職人の青年と恋に落ちます。
その青年は静かな力強さと聡明さを兼ね備えた月のような人でした。
しかし、身分が違う2人の恋は周りから反対され娘の両親は娘から青年を引き離そうとします。
青年は言いました、街から逃げようと。
娘は頷いて青年の手をとりました。
やがて2人の姿が消えた街ではこんな噂が広まりました。
月が太陽を連れ去った、と。
そして、同じくして街には不思議な現象が現れるようになったのです。
「太陽と月がいなくなったからその街はずっとこんな黄昏時みたいな空なんだと」
「へぇ…」
饒舌に喋る男にレンは冷めた目でそう一言返した。
「なんだ兄ちゃん、冷てぇな。これからその街に行くんだろ」
「まぁな」
色々な街を馬で回っている商人だと名乗る男と出会ったのはつい数十分前、ソラの射撃練習を待っている森の中だ。
面白い話をしてやろうと言う男に付き合ったのは、ちょっとした興味と一つの疑念。
この森を抜けた街が黄昏街と言われているのは聞いたことがあった。
由来は初めて聞いたな、とレンは特に表情を変えることなく考えていた。
「それでな、そのガラス職人が最後に街に残していったって作品がなかなかの代物らしい…」
男の声のトーンが変わり、レンはちらりと男を見る。
「なんでも、娘を想って作った本物の太陽みたいな物なんだとか」
「へぇ…」
「兄ちゃんは、興味あるかい?」
「……」
その言葉にレンは顔を上げ、黙ったまま怪しげに光る男の目を見つめた。
「…興味ねぇな」
やがて目を伏せ、相変わらず冷めた様子でそう返す。
「似たようなの…もういるから」
「…そうかい」
レンの返答に男はどこか楽しげにやりと笑う。
そんな男をちらりと一度見た後、レンは小さくため息を吐いた。
話が終わり、男が去っていくとほぼ同時にソラが練習から戻ってきた。
遠くなっていく男の背中を眺めながら首を傾げる。
「レン、あの人…?」
「同業者」
「え」
あっさりとそう答えれば、ソラは目を丸くする。
「ご丁寧に牽制して…ま、ついでに面白い話も聞けたけど」
「え、何々!!」
途端に話に食いついてきたソラに少しだけ面白く思いながらレンは話し始めた。
011:今夜、太陽は月に従う
(Heliodor/黄色緑柱石)
(それは太陽自身の意志)
――――――
月は太陽がないと輝けない
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