(泥棒/レンとソラ)
「私は盾になるためにいるのです」
目の前の男はそうはっきりと言い切った。
「…盾?何かを守るんですか?」
横に座っているソラが怪訝そうにその意味を尋ねていた。
休息のために訪れたとある街でのことだ。
「はい、あの鳥様を」
「「鳥様?」」
思いがけない返答にソラと声が重なる。
「あちらです」
男の向いた方向、街の中心には大きな鳥籠があった。
中にいるのは青藍色の艶やかな尾が長い鳥。
「あれを?」
「はい」
男はそう言いながら誇らしげに笑う。
「この街の人間は鳥様の盾になるためにいるのです」
「ど、どうして?」
「それは分かりません」
「へ?」
ソラがぽかんとした表情になった。
「鳥様はひじょうに長命でありまして、数百年とこの状態です。ですからきっかけなどを知る者はもうこの街には存在していません」
「何か書物とかもねぇのか?」
「書物に書き残すという文化がなかったもので…」
「ふーん…」
少し落胆しつつ、例の鳥を見上げる。
「しかし、私達は鳥様に何か危害が及ぶ時には体を張ってお守りし、何があっても鳥様を優先しろと教えられてきました」
…おいおい、それって。
「…この街は今までどれだけの人間があの″鳥様″のために命を落としたんだ?」
俺の質問に男は素早く答える。
「はい。それは…―」
ソラの顔がさっと青ざめた。
返ってきた答えは予想を上回る数だった。
「…あのさ、レン」
男が去った後、ソラが言い出すことは予想通りだったけど。
次の日、街全体が騒然としていた。
まぁ、当然だ。守るべき鳥が跡形もなく姿を消していたのだから。
死んだわけでもなく、殺されたわけでもない、ただいなくなっただけ。
想定していなかった事態だったのか、誰のせいにも出来ない状況に街の住民はひどく困惑していた。
その騒ぎに紛れるように俺たちはひっそりと街を出た。
「あの街は変わるかな?」
「さぁな」
森の中を歩きながら心配そうな表情でソラの言葉をおざなりに返す。
でも、
「…トチ狂った奴が現れなければいいけど」
あの鳥がいてもいなくてもあの街はもう変わらないのかもしれない。
009:盾になる人
(Malachite/孔雀石)
(それは本当に守りたいものか?)
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