目が覚めてまず映ったのは見知らぬ天井だった。

「え!?」

一気に意識がはっきりして飛び起きる。
どうやら着の身着のままでベッドに寝ていたらしい。

「ここどこ…」

昨日の記憶が途中からない。
なんとか思い出そうと考えているとガチャリとドアの開く音がした。
入って来たのは思いもよらない人だった。

「起きたか?」
「えぇえええ!?」

思わず叫んでしまった私を目の前の人物もといレンは苦笑しつつ、私に水が入ったコップを差し出した。

「はい、水。頭とか痛くないか?」
「あ、ありがとうございます…大丈夫です」

状況は掴めていないけどとりあえずコップを受け取り一口飲んで落ち着こうとする。

「酒、弱いんだな」
「え?あ、はい。昔から弱くて…」
「…昔から?」

あ、これじゃあ未成年の時から飲んでるみたいな言い方だ。

「あの、甘酒とかお酒入りのお菓子とかでも酔っちゃって…」

前世もレンに止められてたし覚えていないけどきっと弱かったんだろう。

「けど…あの、私なんで…?」
「昨日、酔っ払って寝たまま起きないから俺の家に連れて帰って来た」
「えぇ!?」

さっきから驚いてばっかりだ。
つまり私は今レンの家にいるということだ。
なんでそうなったのかはさっぱりだけどこれだけは理解したのでレンに頭を下げる。

「えっと、その…それはご迷惑をおかけしました…」
「……俺になんかされた、とは思わねぇんだ?」
「思いませんよ」

その問いに私は即答する。
だって知っているから。

「そんなことする人だとは思わない」

レンに信じられないみたいな顔をされた。
うん、気持ちは分かる。

「…お前、少しは危機感持った方がいいぞ?」
「わ、分かりました…」

怪訝な表情でそう言われ返事をしたら呆れたようなため息をされた。
その時、開いたままのドアからにゃあと鳴き声が聞こえて白い子猫が顔を覗かせる。
綺麗な青い目の子だ。

「その子…」

もしかして、とベッドから降りて子猫に近づく。
子猫も私の方にやって来て、嬉しそうに身体ををこすりつけてくる。

「流石に命の恩人のことは覚えてるみたいだな」
「やっぱりあの時の子!」

首輪をつけておらずあの時とあまり見た目は変わらないけど、毛並みは綺麗になっていてほっとした。
というか命の恩人はあなたの方だと思うんですが。

「元気そうでよかった…気になってたんです」
「ま、ちゃんと面倒見てるよ」
「ありがとうございます。そうだ、名前つけたんですか?」

子猫を撫でながら何気なく尋ねれば、レンはあっさりと答えてくれる。

「ああ、ヒメルって名前」
「何か意味があるんですか?」

続けて答えてくれようとしていたレンの口が開きかけて止まり一瞬言い淀んだ。
何か答え辛いんだろうか。

「…ドイツ語で空って意味」
「!」

私は目を丸くする。
思いがけず同じ名前だったらしい。
でも確かにこの子の青い目は青空の色だ。

「いい名前ですね」

そう言って微笑めばレンも微かに笑みを返してくれた。

「とりあえず顔洗って来い。朝飯、食うだろ?」
「いいんですか?」
「平気。洗面台はそっちな。タオルは適当に使ってくれていい」

それだけ言ってレンは何食わぬ顔で私の手から空になったコップを取ると先に部屋を出て行った。
残された私はもう一度ヒメルを軽く撫でる。

「…同じ、空だね」

なんだかすごく、嬉しかった。

私の言葉にヒメルはにゃあと返事をする。
それに笑い返してから私は洗面台へと向かった。





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