合同練習を明日に控えた土曜日。
夏目は葵と共に近所のショッピングモールに訪れていた。

とは言え葵は毎月購入している雑誌を買いに行くという夏目の付き添いである。そもそも葵は普段、“ばあや”や使用人達が代わりに買い物をしてくれるためショッピングモールに出向くことはあまりない。

そのためかきらきらと周りを見渡す葵を気にも留めず(いつもの事なのだろう)、本屋が入っている2階に真っ直ぐ向かった。


「そういえば、日曜来てくれるんだってね!」
「うん、勿論。あたし達の為にもなるしね。」
「そっか〜。小花も来るし楽しみだな〜。」


和やかに話していたら本屋に辿り着き、今月の雑誌が並べられているコーナーに向かうと、迷いなく「月刊プロテニス」を手に取る。葵は少し背伸びをしてその表紙をのぞきこんだ。


「“高校生特集”……?」
「そう、4月号から始まったばかりの特集だよ。先月は青学の手塚で、今月は不二周助。」


そう言って見やすいように「ほら」と雑誌が手渡されると、“高校生特集vol.2 青学の天才 不二周助”の文字。そういえば、と葵は先日の出来事を話す。


「そういえば月刊プロテニスの井上さん達が跡部と忍足の取材をされてたかも。」
「じゃあ2人もいつかの回で特集されるだろうね。」
「え!」


そんな!と慌てる葵はもう1度高校生特集が先月号からであることを確認するとすぐにスマホを取り出しどこかへ(とは言え大体予想はつくが)電話をかけ、「月刊プロテニスの4月号のお取り寄せと定期購読をお願いしたいんだけど……」と伝えてはそのあと何度か「月刊プロテニス、ね。げ っ か ん ぷ ろ て に す!」と繰り返していた。ばあやがうまく聞き取れなかったのだろう、と察してぷるぷると口元をひくつかせて笑いをこらえる夏目の背後から、「あの」と声が聞こえる。夏目が振り返ると、切れ長な瞳が見えた。


「女子テニス部の渋谷さん……。」
「男子テニス部の日吉くん、か。あたしの事知ってるんだな。」
「ええ、まあ。……それより、そこの雑誌を取りたいんですけど。」
「……ああ、ごめん。」


己が道を塞いでいることに気がつくと、素直に謝り慌てて少しずれて立つ。今度は人の邪魔にならないよう、細心の注意を払って立ち止まった。すると日吉は、まっすぐ月刊プロテニスを手にとる。


「君も読んでるのか?」
「“も”ってことは貴女もですか。」
「ああ。元プロ選手のコラムなんかもあってお気に入りなんだ。」
「……彼、ユニークな切り口ですよね。」
「!そうそう、よく見てるな。」
「俺もそのコーナーは好きですから。」
「あれ、日吉じゃない。二人で何話してるの?」


思わず話に花を咲かせていると、電話を終えた葵が日吉の姿に気づき驚いたように声をかける。日吉もなんでアンタが、と言いたげな表情をしていると、それに気づいた葵が嫌そうな顔やめなさいと小突いた。2人は仲がいいらしい。


「日吉も読んでるんだ、月刊プロテニス。」
「葵さんは本読まなそ……間違えました。雑誌は買わなそうですよね。」
「失礼だよね?それ失礼だよね?」
「実際葵はさっきこの雑誌を知ったようだったけれど。」
「夏目、そこ律儀に言わなくていいからね?」


自由な2人の前では葵もツッコミに徹するようだ。

結局3人は雑誌を購入すると(葵が雑誌一冊をブラックカードで購入し店員さんを驚愕させるというプチ事件があったりしながら)日吉はそこで「俺の用事は済んだので」と解散し、夏目と葵はぐるりとショッピングモールを周りショッピングを楽しんだのだった。



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