千鶴と茉咲
耳の奥で、彼の告白が木霊する。彼の穏やかに微笑んだ顔がずっと頭の中に残っている。どうしようどうしよう何も考えられない。何を彼に伝えればいいか分からない。
彼は知っているはずだ。私が好きなのは春ちゃんだということを知っているはずだ。春ちゃんを好きでいれるだけで毎日が楽しかった。だけどいつも告白は言えないでいた。このままの関係でいいと心の奥で思っていたのかもしれない。一緒に過ごせているだけで私は春ちゃんにとって他の人たちより特別な存在なんだと心のどこかで思っていたのかもしれない。
――オレ、メリーが好き。
思い出しただけで背筋がくすぐったくなる。顔がじんわりと熱くなってくる。初めて告白をされた。どうしたらいいのだろうか。どういう関係でいればいいのか分からない。どういうふうにしていればいいのか分からない。頭の中があいつでいっぱいだ。いつもは春ちゃんばかりだというのに。なんだか調子が狂う。長い溜息を吐く。なんだかこれではまるであいつに恋しているみたいだ。いやないない私は春ちゃんが好きなんだから。
「ふ、風呂入って早く寝よう。そうすれば……」
またいつもの私に戻れるはずだ。いつもの私とあいつに戻れるはずだ。
悩めるこひつじ
※6巻参照/2010.0618