ヒューバートとパスカル










「弟くーん!」

何故かパスカルさんに名前を呼ばれる度にずくんと胸が疼く。何かがひっかかるような違和感をいつも感じている。これはなんだと頭を捻るが、未だに答えが見つかっていない。答えがはっきりしていないから苛々が募る一方だ。

「なんですか」
「ありゃ、ご機嫌斜めだねー。何かあったのかな?」
「別に何もありませんよ」
「うっそだー。それは絶対に何かあるって」

黒くてどろりとしたものが込み上げてくる。これ以上彼女と話していると、ぽろりと何かが零れそうな気がして口を紡ぐ。いつもなら反論してくるはずの僕を不思議そうに覗き込んできた。そして「弟くん教えて」とせがんで来る。
追求したところで僕は何も答えるつもりはない――否、苛立ちの理由も僕も分かっていないので答えることができないのだ。それなのに何も察しようとせず、必要以上に聞いてくる彼女に対してもっと腹が立ってきそうだ。
限界がきそうだ。張り詰めていたものがプツリと千切れてしまいそうになる。そんなときに兄さんがこっちにやってきた。

「あ、アスベル。あのさ、弟君がさ何か変なんだよねー。何度も教えてって言ってるけどなーんも教えてくれないんだよ」
「パスカル、ヒューバートだって答えられないことがあるんだ。今はそっとしておいてあげてくれ」
「んーそうだね。あ、そういえば……」

兄さんとパスカルさんの会話のやり取り遠くの方でしているような錯覚が起きる。ぼうっとその光景を眺めるようにしていると、兄さんに名前を呼ばれてはっと我に返る。

「どうしたんだ本当に。ヒューバート、大丈夫か?」
「弟くんがぼーっとするなんて珍しいね」
「……何でもありません。平気です」

僕が何故苛立っているのか分かった気がした。兄さんからはちゃんと僕の名前を呼ばれているのに、いつまでもパスカルさんには兄さんの弟としてしか認識されていないことが嫌なのだ。僕は兄さんの弟だけれども、「ヒューバート・オズウェル」という一人の男として彼女の中に刻まれて欲しいのと思うのだ。

「兄さん、ちょっと外してもらえませんか」
「え、ああ」

心配そうに僕を一瞥してから兄さんはゆっくりとこの場を外してくれた。兄さんがいなくなったことでパスカルさんと向き合う形になった。不思議そうにこっちを見上げてくる。

「どったの弟くん?」
「……その、弟くんというのを止めて頂けませんか?」
「あーそれでずっと苛々してたのか……納得納得。なら、普通にヒューバートでいい?」
「……それで構いません」
「えーでもいいにくいなあ。今まで弟くんで通ってたからさー。あ、ヒューくんとかは?」
「それだけは嫌です」
「何で?可愛いじゃん!」
「かわ……っ!」

頬が熱を帯びていく。自分の名前を可愛いだなんて生まれてこの方言われたことなどない。こんな赤い顔を見せるわけにはいかなく顔を俯かせる。

「弟くんが嫌なんでしょ?ならヒューくんでいいじゃーん」
「……もう、弟くんでいいです」





聞き飽きたせいだ





2010.0308
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