千鶴と茉咲










いつだって、メリーは「春ちゃん」のことばかりだ。少しくらいオレの気持ちに気づいてくれたっていい。あの一途な思いが瞳がオレにも向けられたらどんなに喜ばしいことだろうか。いつもそう夢を見ながらオレは、彼女の背中ばかりを見ている。

「メリー、ほれ」
「……っ、いらないわよそんなもの!」

また春ちゃんの為に、彼女は精一杯尽くしたのに失敗して、隠れて誰にもかっこ悪い自分を見せないようにしてひっそりと涙を流す。そしてその後をまたオレが、追いかける。差し出したハンカチをなぎ払い、膝に顔を埋めて静かに嗚咽を零す。こんなときどうすればいいのか分からなくなる。とりあえず隣に座り彼女が落ち着くのを待つしかなかった。
今日は春ちゃんの誕生日なので、一生懸命作ったケーキを食べてもらおうと持って来たのはいいが春ちゃんを見つけて駆け寄ろうとしたとき際に転んでしまい、せっかく作ったケーキぶちまけてしまった。春ちゃんは心配そうに手を貸そうとしてくれたけど、メリーのプライドが高い為にそれを拒否し、零れたケーキをかき集めて走り去っていった。オレは彼女の背中を追って、空き教室の隅で泣いているのを発見した。
やはりここは春ちゃんに来てほしいんだろうな、とメリーの鼻を啜る音を聞きながらぼんやり思った。だってメリーには春ちゃんだから。いつだって彼女の頭の中は春ちゃんだけだから。オレが彼女にしてあげることは、その小さな背中を押してあげること。手元に寄せるより、メリーの幸せを願って少しでも春ちゃんとの側に押し出すこと。それがオレのすることなんだ。オレが彼女のためにできることなんだ。

「……メリー行くぞ!」

オレは立ち上がりメリーに手を差し出す。オレの突然の行為に吃驚して、メリーの涙はぴたりと止まった。不思議に思いながらもそれに自分のを重ねる。――うわー、手ちっせえ。
このまま自分の胸に引き寄せて抱きしめることができるがぐっと堪えて、春ちゃんの携帯に電話をしながら空き教室を後に走り出す。メリーの制止の声が背後から聞こえたが、そんなの気にせずに春ちゃんを探した。通話機に耳を傾け、五回目のコールがなった途端に春ちゃんの柔らかい声が聞こえた。

『千鶴くん、どうかしたんですか?』
「春ちゃん、今、何処にいる?」
『僕ですか?僕は今正面玄関にいますよ』
「わかった」
『え、あ、千鶴く――』

ぶつりと一方的に電話を切って階段を駆け下りる。わっと扱けそうなメリーの声に一瞬だけ止まり、体制が立て直ったらまた走り出す。はやく彼女を春ちゃんの下に届けよう。でないとオレの胸は張り裂けてしまうそうだ。早く早く早く早くはやくはやくはやく―――

「――っ、春ちゃん!」
「……え、ち、千鶴くん?」
「届けもの!」
「わっ!」

走ってきた勢いに任せてメリーを春ちゃんに渡す。少し体がよろめたがそこはしっかりと春ちゃんが受け止めた。それさえ見届ければ十分だ。彼らに背を向けて歩き出す。役目を終えて一気に気持ちが膨らんでいく。ぎゅっと胸辺りを握っていないと直にでも泣いてしまいそうだった。苦しいなんて思わない。彼女を願ってやったことだから、これはメリーが幸せそうだから嬉しくて堪らない涙なんだ。





失青





2010.0217
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