祐希と要










ふと顔を上げて空に広がる千切れ雲を見つめていると、ぐうっという音が鳴った。ぎゅるるっと小さく唸るようなその音はオレのお腹から鳴っているようだ。少し輪を離れて一人黙々と読書をする要に近づいて肩を軽くつついてみた。鬱陶しそうにすぐに払い退けられたが、しつこくやっているととうとう我慢の限界で怒声が飛び散った。

「がああ邪魔するんじゃねえ!」
「……要が一人で寂しそうだったから相手してあげただけじゃん」
「むしろ一人のほうが良かったわ」
「ねえ、何か持ってない?お腹空いたんだけど」
「――さっき昼食ったばかりじゃねえか。そういうのは春に言え」
「春は今勉強中だからだめ」
「なら、他当たれ」

しっしと虫を追い払うように手を振ってから要はまた本に視線を戻した。どこかそれがオレたちと一線を置いているような気がして思わず彼のシャツを引っ張った。いつも一緒に騒いでいるのになぜか要だけは一歩退いてオレたちを見ているような感じがした。
要は突然オレがシャツを引っ張ったことに目を見開いてまじまじとオレのことを見つめる。オレがそんなことをしたことに意外だったのか身をたじろいて戸惑っていた。

「なに、要くん、オレのかっこよさに惚れた?悪いけどオレには大事な人が――」
「……っ、馬鹿やってんじゃねえ!」

ばしんと小気味いい音が響いた。頭がぐわんと揺れる。要は容赦なくオレの頭をはたいた。眉間に皺を寄せて悪態をついてくるが、オレはそんないつもの要が見れて少し嬉しかった。要はいつもこうでなくては駄目だ。オレたちとの間に一線を描いても駄目だ。要もオレたち馬鹿の一員なのだから、たとえ背中を向けていてもオレがちゃんとここの中に入れてあげる。
ぎゅるるっとオレのお腹が小さく音を立てた。そういえばお腹が空いていたはずだ。その音を耳にした要はあからさまな溜息を吐いて自分の鞄を指差した。

「中に一つだけ飴が入ってるからそれでも舐めてろ」

要はまた静かに本を読み始めた。要の鞄の中を漁っていると一つ飴玉の入った小さな袋があった。「桃味」という要には似合わない味が出てきた。前に春から貰ったやつだろう。びりっと袋を開ける。きらきらと光るピンク色の丸いものが出てきた。口の中に放り込んでころころと飴を転がす。甘い味が口いっぱいに広がる。
お腹が鳴った。オレのお腹はこれだけじゃ満たされないようだ。飴を味わって舐めてみる。少しでも足しになるように、飢えてしまわないように、オレはお腹の中に少しずつ蓄えた。





いつだって空腹





2010.1228
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