鼻につくくぐもった声が耐え切れず漏れる。自分では嫌いな此の声を晋助は褒めてくれる。それにまた奥が深く疼いていく。


「相変わらず」


良い声で鳴きやがるなァ。そう私の耳元で掠れながら囁いて、私の耳が性感帯で晋助の声が性器であるように快楽で貫かれる。


「此処が、我慢ならねぇんだろう?」

「ん、……ふ、ぁ、」

「此処も、…此処も」


晋助は私の良い所を全部知っていて、いつも順々にゆっくりとじっくりと攻めていく。それが私は堪らない。耐え切れない。


プルルルル…プルルルル……


「…野暮な野郎だなァ」


画面を見なくても晋助には発信相手が分かったようで、今日は帰宅が遅くなると言っていた旦那の顔が浮かぶ。けれどもチカチカと薄れていってすぐに快楽に意識を引き戻された。


「出ねェのかい?」

「ん。出させて、くれないじゃない」

「出ろよ。聞いていてやるから」

「嫌よ。そんなの」

「いいから」


私が嫌だ嫌だと首を振るのに。晋助はお構い無しで私の携帯を摘み上げ、迷いもなく通話状態にして寄越した。この鬼畜。


「…はい」


家を出る前に告げていた時間よりも遅くなる。ご飯はいらない。寝ていていいから。そんな内容だった。私は必死で相槌を打つけれど、晋助がまるで楽しんでいるように私に悪さを仕掛けてくる。首筋を舐め上げてみたり。背骨をつつとなぞってみたり。私は堪えるのに必死になって曖昧な返事だけを返してすぐに通話を切った。


「だから嫌だったのに」

「普段より感じたんじゃねェのか?」

「うるさい。もう知らない」

「そうむくれるなよ。もう暫くしたらあいつが帰ってきちまう」

「それすらも楽しみそうで怖いのよ。晋助は」

「さあ、どうだろうなァ」


ほら。快楽だけが一番なのだ。私も別に大差はないけれど、晋助ほどにはスリルを楽しめない。
綺麗だと噂の晋助の奥さんが帰って来でもしたら、私はどうなってしまうのだ。そうなる前にはいそいそと帰らせてもらう。それが常套手段というものだろう。


「夜は短ェ。早く壊れちまえよ」

「壊すのが仕事でしょう?」

「そういう顔で見上げられんのが一番唆る」


知っている。晋助は人一倍プライドが高い男だから、挑発的に見上げる女がへし折れる様を見るのが好きなのだ。私はそんな晋助がどんどんと欲を昂らせる様を見るのが何よりもぞくぞくする。それを晋助も知っているのだろう。


「愉しくて、気が狂いそうで、堪らねェ」


帰るべき場所を忘れ去る背徳が、快楽を一層際立たせることを私たちは知っている。
どろどろに溶けて潤けてしまいたい。

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