「ナマエ、ナマエ」

「ん…、」

「相変わらず寝起き悪いなァ」


いつになくすっきり目覚めた様子の銀時と、いつものようになかなか起きれない私。別に今日は依頼が入っている訳じゃないしデートの予定でもない。それなのに隣の銀時は急かすように私を起こしてくる。こっちは眠たいのに。


「……おは、よ」

「ん。はよ」

「…どしたの」

「んな顔すんなよ」

「だから、なんなのってば」


にやり。含み笑いの銀時はなぜかしたり顏。ほんと、どうしたというのだ。眠いし怠いしそれに、すごく寒い。もぞもぞとたぐり寄せた布団をすぐさまばさりと剥がされる。この。怒るぞそろそろ。


「な。寒ィだろ」

「………」

「………ぐふっ!いて!いってェよバカ!」


私の握りこぶしが隣に寝転ぶ銀時のお腹を直撃。もったいぶるからだ。


「知るか。寒ィだろじゃないわこちとら睡眠邪魔されてしかも寒いし布団剥がれるしその痛みくらい我慢しろ」

「いや、そんな怒んなって。雪。雪降ってんの」

「は?」

「初雪。お前好きじゃん、雪」

「……は」

「朝日に反射して綺麗だなーと思ってよ」


カーテンの隙間から見える雪はなるほど、澄んだ朝日に照らされてキラキラとまるで星くずのように舞っている。これは寒いわけだ。まさか雪が降るなんて。


「…ごめん」

「ん?」

「お腹。思いっきり殴った」

「うん。痛ェよ」

「ごめん」

「だからお詫びにデートして」

「え?なにそれ…?」

「寒ィけどこんだけ綺麗なら出る価値あんだろ。俺って結構ロマンチストだし?」

「……銀時、」

「ん?」

「わかりやすいなぁ」


銀時の暖かい胸にうずまってこぼした言葉は篭っていたけれど、嬉しいの、隠しきれてなかっただろうな。
銀時は、私が「初雪が降ったら誰かが足あとつける前に散歩しようね。寒いとか言っても知らないから。絶対だから」と同意も求めず言った言葉を覚えてくれていたに違いない。冗談半分で言ったんだけどなぁ。


「もう誰かの足あとついてるかな」

「ジジィババァは早起きだからな。この時間じゃもう負けだろ」

「そっか」

「やめるか?」

「やめない」

「だと思った」


さっきまで寒い寒いと思っていたけれど、勢いよく起き上がってタンスから着替えを引っ張り出す。今度は暖かい体を私に貸してくれていた銀時の方が寒い寒いとごねながら洗面台に歩いていった。


「銀時ー。耳当て、いるかな」


戸を何枚か挟んだ先にいる銀時に呼びかける。私はこういうとき、なんでも銀時に聞けばいいと思っている。なにか答えをくれるし、わからない自分で考えろとは言わないからいつもいつもくだらないことを尋ねては答えをもらう。


「あー持っとけ持っとけ。どうせさみーんだから」

「銀時のも出しとくねー」

「あいよー」



寒い寒い朝の外に出れば、もうすでに足あとはいくつもついていた。大きな足あとと小さな小さな犬らしき足あと。自転車のタイヤあと。なるべく真っさらな雪を二人で踏んで、新しい足あとを押しつけながら並んで歩いた。寒くて白い綺麗な朝。

blue moon morning

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