明けましておめでとう
1月2日、以下の住所に来てください


この歳にもなると結婚報告やら家族が増えましたやらそんな年賀状もちらほら出てくる中、大学時代によくつるんでいた一人の男から一枚の年賀状が届いた。写真もイラストもなにもプリントされていない、ただ筆ペンで二行の文字と知らない住所だけが記されたそれからは新年を祝う気持ちが毛ほども感じられない。しかし生憎なのか幸いか、1月2日なんてまだ仕事も始まらないし実家で寝正月と決めていた私の予定はぽっかり空いている。大学時代に一人暮らしをしていたアパートからは遠いこの実家から、年賀状に書いてある住所は少しばかり面倒な立地にあるようだった。それでも行ってみるかと腰を上げるくらいには私はこの男と仲が良かったしなにか面白いことがあるのではと信頼してもいる。






見知らぬビルの前、一応と思い持ってきた年賀状にはここの4階と記されている。ビルの階段付近に置かれた看板によると、どうやらカフェバーらしい。昼はランチも置いているし夜になればカフェメニューにプラスしてお酒も置いてある。よく見かけるようなおしゃれな雰囲気のお店なのだろう。しかもその看板には本日貸切のため16時閉店。と書かれていた。こんな正月早々ビルの4階にひっそりと佇む小さなカフェにお客など入るのだろうか。それに、貸切ということはこの年賀状の送り主、坂田はわざわざここを貸し切っているのだろうか。そんな面倒なことをするタイプではなかった。集合時間は適当で、なんのプランもなく私をはじめヅラと高杉と坂本が連れまわされることも少なくなかったのだ。そういえば、今浮かんだ面々も今日呼ばれているのだろうか。そうだとすれば一層面白いことになるのかもしれない。


「ミョウジ、か」

「え、…高杉!」

「よ」

「あけましておめでとう」

「おう。おめでと」


階段前で一人悶々と考えているとやはり浮かんだ顔もここに呼ばれていたらしく、久しぶりの再会を果たすことができた。


「てことは」

「あァ。ヅラと辰馬もさっき会ったぜ」

「さっき?」

「タバコ。買いに出てたんだけどよ。ヅラは準備手伝うっつって早めに来てたらしいし、辰馬は俺がコンビニ行く途中ですれ違った」

「ん?準備?」

「あぁそうか。お前は知らねェのか。つっても俺と辰馬もさっき知ったんだけどよ」

「うん」

「ヅラは大学卒業しても銀時と接点あったみてェだからな」

「ほう。で?」

「まァ入りゃわかる」

「…焦らすねぇ」

「んな大層なもんでもねーけどな」


高杉に促されて階段を上る。エレベーターないのかここ。たった4階ごときで切れる息に少し歳を感じた。


「そういえば、外の看板に16時閉店て書いてあったけど。まだ15時…」

「いいんだよ。関係ねぇ」


先に入る高杉のあとを追う。ドアの向こうはやはり小洒落たおしゃれな雰囲気で。少し暗めの照明が隠れ家的な空気をかもし出している。


「おっせーな。もう揃ってんぞ」

「坂田!と、ヅラと坂本も!あけましておめでとー」

「おう。ことよろ」

「久しぶりだな、ミョウジ」

「元気しちょったか!まっこと綺麗になって!」


懐かしい顔と変わらないゆるい雰囲気。店内を見渡すとこの場にいるのは私たちだけのようで、高杉の言うように閉店というのは関係なかったらしい。それにしても、まさか、


「んで、いらっしゃいませ。だな」

「坂田のお店?ってこと?」

「そういうこと」

「銀時も立派になったもんじゃ。フラフラしちょったのに」

「こいつは今でもフラフラしているぞ。なにも変わらん」

「おい銀時、酒出せ酒」

「高杉おめェなぁ、順序ってもんがあんだろ。まずは新年を祝ってだな」

「ねぇお腹すいたよ。何か食べたい」

「もう新年の挨拶は済んだき、いいち」

「っはぁぁぁ。こうなると思ったよなんも変わらねぇなお前らは」


適当にカウンターに座って、カウンターの向こうの銀時と手伝っていたらしいヅラが生ビールと前菜を出してくれた。


「こんな銀時らしくないおしゃれなお店なんだからもっとおしゃれなお酒出してよ」

「バーカ乾杯は生って決まってんだろ。そっからあとはいくらでも作ってやっから」

「ほんと?」

「あァ。つっても俺も食べて飲むからあんまペース上げすぎんなよ」

「自分でつくりゃいいだろそうなったら。飲めりゃなんでもいいんだよ」

「高杉絶対さらにお酒強くなったでしょ」

「アッハッハ、それでも一番の酒豪はワシじゃき!」

「とりあえず乾杯するか」


ヅラの声で、それぞれ生ビールを片手に乾杯の合図を待つ。昔からこの役は坂田のものだった。


「それじゃ、新年と久々の再会とここの開店祝いに、」


乾杯!!
高杉と坂本はぐびぐびと喉を鳴らし、坂田はグラス片手に料理を盛り付けている。手伝っていたヅラはもうすることがなくなったのか私の隣に座った。


「それにしても、坂田がお店なんてね」

「んなもんすぐ閉店だな。飽きる」

「お前と一緒にすんな」

「またみんなで集まる場所ができて良かったじゃないか」

「あぁ、そっか。そうだね」

「学生のころに戻ったみたいろー」

「あん頃は辰馬ん家集まってたなぁ。でかかったし」

「酒も常備してあったしな」

「高杉そればっか」


早くもグラスを空にした高杉が坂田に催促すると、生なら自分で注げと早速セルフサービスになっていた。
本当に、まさか坂田がカフェを運営して料理やお酒を振る舞うなんて。学生のころからじゃ想像もできない。それでも今は見事に様になっていて、ここを行きつけのお店にしたいと思った。


「あ、」

「ん?どした?」

「私今実家だからここ遠いんだよね。近かったら行きつけにしたいって思ったのに」

「なんだ、もう戻ったのかよ。せめェ部屋だったけど居心地良かったのに」

「高杉の部屋も辰馬ほどじゃないけど大きかったもんねーいいですねーボンボンはー」

「なーじゃあさ、ここで働けよ」

「は?」

「ヅラは暇人だから頻繁に手伝ったり出入りしたりするし、高杉と辰馬も仕事先この辺だろ?ミョウジが居りゃ揃うんだからよ」

「そうだな。この辺ならまた一人暮らしをするのにも便利だぞ」

「ミョウジがここで働くちいうなら毎日来るろー」

「まァ、いい案なんじゃね?なんなら俺んとこに居候させてやってもいいぜ?」

「高杉のとこは絶対危ないからいや」

「今すぐってわけじゃなくても、ここに来てェならいつでも雇ってやるぜ?」

「うん、考えとく。私もみんなで集まりたいし」


また学生のころみたいにみんなでバカなことをして夜通し騒ぎ倒してみたい。そういえば最近思い切りなにかをするってなかったし、一年頑張った私に今夜は誰かからのご褒美なのかもしれない。まだまだ、夜は始まってすらいない。私のこれからも良くて今動き出したばかり。とどのつまり、なにかが動いた音がした。


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