「あー、」
「ん?」
私の方が背が低いのに、むしろ彼はびっくりするほど大きいのに、よく彼の方が私を見つける。今もまた。保健室から出たところで丁度そこを通っていたらしい紫原君に遭遇した。久々だなぁ。
「ミョウジさん学校来てたー?」
「え?来てたよ」
「ふぅん。全然見かけなかったからさ」
「私は一回見たけどね」
「えー、そうなの?」
「紫原君、バスケ部なんだね」
ポテチを次々と口に運ぶ紫原君を見上げて言う。あら、少し驚いてる。
「なに、部活見に来たの?」
「見に行ったわけじゃないんだけど、荒木先生にレポート出しに行ったときにね」
「なんだー。じゃあもっと頑張ればよかったし」
「すごい迫力だったよ。びっくりした」
「ふぅん。全然気付かなかった」
「そういえば、一年のとき誘われたなぁ。バスケ部のマネージャー」
吹奏楽部やバレー部やその他諸々、入学当初の部活選びの時期にはみんな様々な部に勧誘されていた。私も例外ではなくたくさんのチラシを貰って、その中にバスケ部のものもあった気がする。マネージャー募集!なんて元気のいい字で書いてあって。
「ミョウジさん、バスケきらい?」
「きらいじゃないよ。でもルールとか全然わかんないから」
「部活、入ってないのー?」
「入ってないよ」
「じゃあマネージャーやればいいのに」
「だから、ルールとかね、マネージャーの知識とかね」
「そんなんやってれば身につくし」
「しかもうちってバスケ強いんでしょ?なおさら無理だよ」
「じゃあ試合来て。応援してよ」
「いいの?」
「は?いいに決まってんじゃん」
「試合中の紫原君、見てみたかったんだよねぇ」
あ、そうだ。とポケットを探る。たしかイチゴミルクの飴が何個か。
「これ、あげる。部活頑張ってね」
「今日も見に来んの?」
「んー、今日は行かないかな。すごい雰囲気だから怖いし」
「なんだー。つまんね」
薄ピンクの飴玉が大きな口に放り込まれていった。ガリゴリ。すぐに噛み砕かれるそれに苦笑しながらじゃあねと手を振る。もうポテチに手を伸ばしながら紫原君はへらりと笑った。