「ミョウジさんだー」

「あ、紫原君」

「久しぶりー」


彼が一年生であるという正体のようなものを知ってからは、特にあの身長を探してみることもしなかったせいか、一年生と二年生が出くわす可能性のある階段でも昇降口でも見かけなかった。たしか私の記憶が正しければ二週間ぶりくらいに話した気がする。
購買もあったか、他学年と関わる場所。


「紫原君、ひとり?」

「んー、食べるのは一人じゃないけど」

「そっか。ここのパン美味しいよね」

「ミーティングなかったらもっとゆっくり選べるのになー。めんどくさ」


そう言う紫原君の手には大量のパンが抱えられている。体が大きいから食べる量も多くて当たり前か。


「ミーティングって部活の?」

「そー。昼にやる必要なくね?って思う」

「まぁまぁ、頑張ってね」


部活、かぁ。これだけ体格がいいんだからいろんな部から勧誘されたんだろうと容易に想像ができる。手足も長いからバレーやバスケなんか特に。


「ミョウジさんは?」

「友達が5限目に提出の課題終わらないって焦ってたから一人で買いに来たの」

「ふーん。…そのパン、美味しそうだね」

「交換する?」

「いいのー?」


紫原君は、大きいのに子供みたいなかわいらしさがある人だと思う。だって今も嬉しそうに目を輝かせている。


「いいよ。はい」

「ありがとー。じゃあこれあげる」


紫原君に手渡されたのは大きめのパン二つ。いや、これ。二つって。しかも結構なサイズだし。私どれだけ食べると思われてるんだ。最初の出会いはあれだったけどそんなイメージはさすがに恥ずかしい。


「二つも?一個でいいよ」

「ミョウジさん小さいし。あげる」

「いや、紫原君が大きいんだよ。私はふつう」



ぐぅぅぅぅぅ

熱という熱が顔に集中する。これじゃあ本当に食いしん坊キャラだ。別に大層な音が鳴るほどにお腹は空いていないのになんでだ。


「ほら。あげる」

「……う、ありがとう、ゴザイマス」

「顔赤いよー?」


大丈夫ー?なんて覗き込まれる。
いつもずいぶん離れた位置にある顔が不意に近づいて。うわ、髪ふわふわだな。


「……ミーティング、行かないと。ね!パンありがと!」

「ん。今度そのパンの感想教えてねー」


両手に抱えたパンとその身長とその髪色。いろんなものに注目が集まって開いた道を紫原君が歩いていく。そんな視線にはもう慣れているらしい。

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