「ねぇナマエ」
「ん、なに。どしたの変な顔して」
失礼ね!なんて怒った顔をつくる友達に笑いながらどうしたのだろうと不思議に思う。だってなんだか思い出すような考えるような不思議な顔をしている。
「あの背高い子って一年生だよね」
「あぁ紫原君?そうだけど」
「さっきそこの廊下歩いてたよ?誰か探してたみたいだけど」
「バスケ部の先輩じゃない?部活のこととか」
「そう?行ってみてあげたらいいのに」
「んー、違ったら恥ずかしくないそれ」
紫原君どうしたの?なんて行ってバスケ部の先輩探してるとか言われても私多分誰がどこのクラスとか知らないし。あ、そうなんだーじゃあねー。ってどんな顔して帰ってくればいいんだ。それに紫原君は初めて会ったときに保健室で私の名前とクラスと体温を見ているからもしかしたらクラス覚えてるかもしれないし。いや、でもそんな前のこと忘れてるか。私なら確実に忘れるし、やっぱり行った方がいいのかな。なんて行くか行かないか迷っていると教室のドアが開いて一瞬ざわついた。
「ほら。やっぱりあんた探してたんだよ」
私を見つけた紫原君はミョウジさんだーと言いながら教室に入ってきた。探してるのを知ってて出て行かなかった罪悪感を感じて紫原君のいるドアのところまで小走りで向かった。ごめん、紫原君。
「ミョウジさん2組だったんだねー」
「どうしたの?」
「ん。辞書持ってない?」
「辞書?あるけど」
「貸してくんない?次の英語の先生厳しくて先週も怒られたんだよねー」
「ちょっと待っててね」
机まで戻って電子辞書を取り出す。視線が痛いのですが周りを見れません。
紫原君を初めて見る人は大きさに驚いて、紫原君を知っていた人はミョウジとバスケ部のあいつ知り合いなの?って驚いてるんだろうなぁ。私、バスケとなにも関係ないし。
「はい、どうぞ」
「ありがとー」
「今日は英語ないから返すの放課後とかでも大丈夫だよ」
「ん、わかったー」
ばいばいと手を振って紫原君を見送る。
はぁ。振り返るとやはり、ちょっとした期待の目に包まれた。これがただ他のクラスの男子とかならなんでもなかったんだろうけれど、紫原君は知っている人も知らない人でさえ興味を引く対象なのだろう。ミョウジあいつと知り合いなの?もしかして二人付き合ってるとか?ナマエってバスケ部のマネージャーだったっけ?たくさんの質問を投げつけられてさらりと躱しながら、いや、ただの知り合いです。そんな面白いもの見つけたみたいな顔しないで。そう伝えながら自分の席に戻る。うちのクラスは男女混みで普通に仲が良く、なんだつまんねー付き合え付き合え。応援してるよー。なんて、なぜだか声援を送られた。どういうノリだまったく。
「みんな楽しんでたねぇ」
「絶対いじられる」
「まぁすぐ飽きるでしょ」
「そうだろうけど〜…」
二年の新クラスになってしばらくして、クラス内でカップルが誕生したときもさっきみたいに盛り上がっていた。私もまわりと一緒に騒いでいた側の人間だし。
とはいえ、時間が経てばみんなの興味も薄れるかと大きく鳴るチャイムに従った。