そろそろ夜でもうっすら汗をかく季節になってきた。部活でめいっぱい汗をかいたであろう紫原君は肩に大きなタオルをかけている。
「ミョウジさん、オレさー」
「うん」
「告白されたんだよねー」
「え、良かったじゃん」
「んー」
紫原君はあまり気にしていない様子。強豪バスケ部の一年生エースなんてただでさえ目立つに決まっている。それにお菓子好きというこのかわいらしいオプション付き。紫原君にとっては珍しいことでもないのかもしれない。
「かわいい?」
「ん。ミョウジさんよりはー」
「この。はっきり言うなし」
「冗談。あんま顔覚えてねーし」
なんだ。自慢ですかこの子は。そういえば、紫原君はなんでもないようなことをよく話してくれる。授業で寝ていたらでかいまいう棒に追いかけられる夢をみただとか英語の小テストで0点をとっただとか。紫原君にとって女の子に告白されることはそれらと変わらないくらいのネタなのか。やっぱり自慢だ。
「で。返事したの?」
「無理っつったよー」
「は?無理?」
「ん。なに」
紫原君のことだからきっと「ん、無理ー。オレそういうの興味ねーし」とか言ってそう。うん、絶対言ってる。子どもみたいに無意識にキツイこと言うことあるし。
「ファン減るよ?」
「は?そんなんいらねぇし」
「いつか痛い目みてしまえ」
「ミョウジさんひどーい」
「自分を応援してくれる人は大切にしないと」
「そーゆーもん?」
「オレ今バスケに集中したいから付き合えないんだ。ごめんね。くらい言えないと」
「ミョウジさん……きもいし」
そうすれば、それなら仕方ないよね。でも私応援するよ紫原君のこと!ってなるはずなのに。まぁ紫原君がそんなこと言うわけないか。それこそ気持ち悪い。
「まぁバスケが理由っていうのもあるけどさー」
「うん」
「好き勝手できなくなんのやだしー」
好き勝手やってる自覚あるんだ。
「バスケで疲れてんのにメールとか電話とか来てたら絶対うぜーし」
「まぁそれは、そうだね」
「ミョウジさんと会えなくなってもやだし」
「え、私?」
「ん。黄瀬ちんが女の子の嫉妬は怖いって言ってた」
黄瀬ちん。誰だそれ。紫原君は私の知らない名前を平気で当たり前に出すから想像はしてみるけれど、きっとクラスの友達とか中学の友達とかそんなとこだろう。
「彼女できたら私と会ってる時間なんかもったいなくなるよ」
「えーそう?わかんねー」
そうは言っても、私と会えなくなるといやだと思ってくれているんだからかわいい後輩だ。私も、紫原君との時間は楽しくて少し特別で好きだ。今までたまにしか行かなかったポテチの散歩も、今では私の担当になったくらい。
「でもそれってさ、そんなの全部関係なくなるくらい好きな人を見つければ解決する話だよ」
「………ん、そっかー」
「ね?そうだよ」
「そういえばミョウジさんはー?彼氏いねーの」
「…いないっす」
「良かったー」
「良かったのか」
「男の嫉妬は痛いって黄瀬ちん言ってたし。オレ喧嘩とかきらいー」
また黄瀬ちん。どうやら恋愛において経験者らしい。
「そうだねー。今が楽しいもんね」
「オレ勉強教えてもらう約束だし」
「いや、それまでに彼氏できることは絶対ないから安心して」
「ん。知ってる」
だから。失礼だなこの子はほんと。