「ねー、ミョウジさん勉強得意?」
「いや、得意では…」
「そっか。そんな気するー」
「ちょっと。失礼だな」
ぽりぽり。もしゃもしゃ。何度目かの二人の道で、ポッキーを3本ずつ口に運ぶ紫原君はさらりとけなしてきた。それにしても、勉強って。この間中間試験が終わったばかりで期末試験はまだまだ先なのに。あ、中間の結果が良くなかったのかな。
「紫原君こそ勉強苦手そう」
「んー。まさ子ちんにこの成績じゃ試合出さないって言われてさー。それはつまんねーし」
「まさ子ちん?」
「監督。怒ったらめっちゃこえーの」
「あぁ荒木先生か。うんそうだね。それは頑張らないと」
「ミョウジさんに教えてもらおうと思ったのに」
「バスケ部の先輩は?」
「みんな俺とあんま変わんねーみたいなんだよねー。オレよりはマシだけど」
「………まぁ…私も得意じゃないけど苦手でもない、よ」
「ん。赤点じゃなかったら大丈夫」
赤点じゃなかったらって、中間どれだけの成績だったんだろう。私も勉強が得意ってわけじゃないけれどそんなに赤点を量産するほどではない。ちょっとした山はりならいつもやってるしどの先生がどんな風にテストを作るかも大体わかる。短時間で赤点をとらないくらいの勉強。それをいつもやってきた。それに去年習った内容なら私でも教えられるかも。
「期末に向けて?」
「うん。今から予約しとこうと思ってさ」
「予約って、そんなのしなくても教えるよ。私ヒマだし」
「オレ部活あるし、期末前の部活制限始まったら教えてよ」
陽泉高校では試験が始まる二週間前から部活の時間が18時までと制限され、一週間前には部活動自体が禁止になる。だから、期末試験前の二週間、そこからが紫原君の勝負らしい。
「18時までだよね?部活」
「そ。あ、でもその間どうしよー」
「図書室で勉強してようかな。私のテストもあるし」
「……いいの?」
「うん。それより紫原君は部活のあとで大丈夫?」
「んー。絶対眠いけど、言ってる場合じゃねーし」
「そっか。じゃあ頑張ろ」
信号待ちで紫原君を見上げると、やっぱり眠そうな顔をしている。試験前はもっと部活は短いけれど、勉強を教えることよりも紫原君の集中を切らさせないことの方に骨が折れそうだ。