友達と購買でパンを買っていると飛び抜けた紫が食堂の方へ向かうのが見えた。友達に先に戻っておいてと伝えて自販機に走った。

とはいえ、彼の好みを私は知らない。お菓子が好きだということくらい。それにしたってチョコやビスケットみたいな甘いものを食べていることもあればスナック菓子を頬張っていることもある。無難に、無難に。りんごジュースでいいや。100パーセントの。私は今までこれを嫌いという人に出会ったことがない。


「紫原君!」

「ん、ミョウジさん」


紫原君はよく私の名前を口にする気がする。私もだけれど、それは珍しい名字に対する興味みたいなものでもあって。紫原君に呼ばれると、私の名前はふわふわと甘いお菓子のような音になる。


「これ、あげる。試合おつかれ」

「見にきてくれてたねー。はしっこ座ってた」

「うん。最初からは見れなかったんだけどね」

「りんごジュースありがとー」

「勝利のお祝い」

「ん。それはいつもだけどー。ご褒美もらえんならもっと頑張る」

「今回は特別。初めて試合見てちょっと感動したから」

「感動?」


紫原君はこてんと首を傾げている。この身長でこの仕草に違和感がないなんて紫原君ぐらいのものだろう。しかももうりんごジュース飲んでるし。毎回早いなぁ。


「そ。感動」

「んーよくわかんねぇや」


初めてのバスケットの試合に、気持ちの良い勝利に、いつもとはちがう紫原君に、感動。紫原君は言葉の奥のところはわかっていないようだけれど、私が褒めているということは伝わったようだ。


「あ、そういえば」

「ん?」

「昨日、散歩したー?ポテチ」

「ううん。昨日は練習試合あったから時間ちがうと思って私は行かなかったんだけど、」

「そっか。良かったー」

「良かった?」

「昨日早く終わったんだよねー。だからもしオレが帰った後に散歩してたらって思って」

「やっぱり試合のときは早いんだ」

「んーいろいろ。ミーティングあるときもあるし」

「ふぅん。まぁいないようならいないで帰るから大丈夫だよ」


そっかーそうだよねー。と紫原君は納得した様子で、ズズズーとへこんだパックを鳴らしていた。
遠い人なのではないか、きっと紫原君は私より遠くにいる人だけれど無意識に私の近くまで降りてきてくれる。だから遠すぎるわけでもないのかもしれない。


「じゃあ、友達待ってるから戻るね」

「うん。ばいばいー」


放り投げられたりんごジュースのパックが吸い込まれるようにゴミ箱に飛び込む。試合では見られなかった紫原君のシュートが見てみたい。

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