ここ最近部屋の中からポテチを見ると期待を込めた目で見つめられる。例のごとく尻尾は千切れんばかりの勢い。
「あら、今日はもう散歩行ったのにね。足りなかったのかしら」
「んー、そうかも。だけどそうじゃないかもなんだよね」
「は?なに。暇なら行ってあげたら?散歩」
甘い匂いの彼をポテチが気に入ってしまったのかもしれない。大人しく撫でられていたし。まぁお母さんの言うように暇だし、行ってみるか。
ポテチに引っ張られながら学校へ行くと体育館にはまだ明かりがついていた。帰ろうかとも悩んだけれど学校近くをぐるりと周ると、今度は電気が消えていた。入れ違いになってしまったようだ。
「今日は会えないねー。残念」
それでもたくさん歩けて満足したのか、ポテチはとてとてと小さい体を揺らしている。なんだ、ほんとに歩き足りなかっただけだったのか。
そこでふと思い浮かぶ。この前この辺りで紫原君に会った時、彼は部活後だというのに開けたばかりの様子のポテチトップスを抱えていた。もしかしたら部活が終わってコンビニで買ったのかもしれない。すぐそこの。
「あ、」
「あー、ミョウジさん。とポテチだ」
やっぱり。今まさに、紫原君がそこだけ眩しいコンビニから出てきた。ガサガサと音を立てるビニール袋をぶら下げて。
「部活おつかれさま」
「うん。散歩おつかれー」
散歩おつかれなんて初めて言われた。それでもそんな発言にはお構いなしにポテチは尻尾を振って紫原君に近づこうとする。やっぱり、目的はこっちだったか。
「ポテチが紫原君に会いたがってた」
「ん。オレもポテチに会いたかったよー」
ガシガシと頭を撫でられるポテチはやっぱり嬉しそう。うんうん、ほんとかわいい組み合わせだ。
ポテチから手を離して歩く紫原君の隣に並ぶ。
「ミョウジさんにも会いたかったんだー」
「え、ありがと」
「今週の日曜、練習試合」
「へぇ。頑張ってね」
「来てくんねーの?」
「練習試合でも見に行けるの?」
「毎回体育館開放してるらしーしうち強いから結構ギャラリー多いよ」
「ん、紫原君レギュラー?」
「うん」
うちって結構強豪らしいけど、そこで一年生レギュラーか。これだけ身長があるにしてもすごいことなんだろうなぁ。偶然部活を見たときの迫力もすごかったし、これは練習試合といっても楽しみかもしれない。
「日曜は予定ないし、行ってみようかな」
「ん。がんばるねー」
「あ、紫原君、寮どこ?今日は悪いから送らなくていいからね」
「えーいいよ。送る」
「大丈夫!ね!」
「だってこの辺って夜暗ぇし。危ないしー」
この目、絶対に引きそうにないというか私の言うこと聞きそうにないな。止める私を無視でスタスタ歩いてるし。でもなぁ。紫原君部活後だし。疲れてるんだろうに。
「ねー、明日からも散歩してよ。ポテチの」
「ん?」
「オレもポテチ好きだし。いつもこの時間だからさー」
「いいけど、ほんとに送りは大丈夫だからね?」
「んーじゃあ送るのは時々」
「まぁ、それなら」
「うん。ポテチも喜んでるよ」
「ほんとだ。わかるのかな」
ポテチの短い尻尾が左右に揺れるのを見て、紫原君が満足そうにふわりと笑っている。それから結局また家の近くまで送ってもらって、大きな手を振る紫原君を見送った。