1月1日
新しい一年のはじまり。ちゃんとこの日記をつづけるのが今年の目標。
夕方まで家族と過ごしてタクヤと初詣。すごく寒かったけどふたりで甘酒飲んだり楽しかった。
1月2日
昨日からタクヤの家に泊まって今日は一日ダラダラ。正月早々テレビゲームで一日が終わったことにすこし後悔。
そこまで読んでもういやになった。ナマエがオレと出会う二年前、いまから五年前の二十歳になる年の元日から書きはじめたと言っていたこの十年日記。いくら頼んでも、どれだけ駄々をこねてみても、どうしても見せてくれなかった。一ページに十年分の同日の日記が書き込めるその日記帳にはいま五段の1月1日のできごとが書かれている。
オレと出会ったときナマエにはオレ以外の彼氏がいた。それから一年してナマエはオレと付き合いはじめた。だからこの日記にその元彼の名前が出てくるだろうことは予想していたけど、予想はしていたけれど、やっぱり読んでみると耐えられなくなった。心臓がぎゅっとなって苦しい。
「あ!こら敦!」
「……」
「読んだの?その日記」
「……ん。ナマエのばか」
勝手に見たオレが悪いしナマエはただ日記としてその日のできごとを記していただけ。そんなのはわかってる。だけどこの気持ちをぶつける相手なんてオレにはナマエしかいない。ナマエは勝手に読んだオレに怒る様子もなく困ったように笑ってる。
「…もう。敦が嫌がると思ったからそれ見せなかったのに」
「だって気になるし」
「人の日記なんて読むものじゃないでしょ?」
「……ん。そんなんわかってる」
ナマエはオレから日記帳を取り上げて、目的があるみたいにパラパラとそれをめくる。部屋に響くだけの紙の音が心地いい。
「ほら、ここ。特別に今日はこのページ見せてあげる」
ナマエが開いてみせたのはナマエの23歳の誕生日のページだった。いまから二年前のオレたちの記念日。そこだけ他と違う色のペンが使われている。
今日はすごくすごく幸せな日。紫原くんが私を好きだって言ってくれて、付き合うことになれて、これからずっと一緒にいられますように。
「……う、わ」
「これ見られたら恥ずかしいから見せなかったっていうのもあるんだけど」
今度は照れたようにナマエが笑って、オレは心なしか丁寧な文字で書かれたその文章を何度も何度も読み返す。そこからまたページをめくったら、たくさんのオレの名前が散らばっていた。紫原くんから敦くんになって、敦になって。
「…やばい。オレにやけてない?」
「うん。嬉しそうににやけてるよ」
「むり。がまんできねぇってこれ」
「でももう読んじゃダメだからね」
「えー」
だってこんなに嬉しいもんなのに。上の二、三段さえ見なければオレのものにしたいくらい。
「だめ。今度は本気で怒るからね」
「……ん。わかった」
また読みたいけど、ナマエが本気で怒るのは嫌だからがまんしてあげることにする。
(130316/人の日記は気になる)
10年日記、はじめようと思います。