「んー」


ん?
敦の間延びした声に読んでいた雑誌から顔をあげると思いのほか近くに敦の顔があった。

ちゅ


「え、なに。なに急に」

「あー、やっぱり」

「え、だからなにが」

「ナマエちん唇乾燥してる」

「……は?」


もう一度敦の顔が近づいてぺろりと唇を舐められた。ただ、舐められた。


「カサカサ。かわいそー」

「昨日リップクリーム家に忘れてそのままだったから」

「ふぅん」


敦は興味深げに私のとげとげした唇を親指でなぞる。優しい手。あたたかい。


「オレが治してあげれたらいいのに」

「リップクリーム塗ってれば治るから。大丈夫だよ」


もう一度唇が重なって、数秒してからやっぱりぺろりと舐められた。水分を持った唇はさっきまでよりも少しだけ熱い。


「おいしそー」

「ん?」

「食べちゃいたい」


咀嚼するように、取り込むように、敦の唇が私の唇を潤していく。



(121226/あまいくちびる)

紫原君に乾燥した唇を気付かせたかった話


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