セルフの水を飲みながら料理が運ばれて来るのを待つ。思い出から最初に話題を作り出したのは銀時だった。
「案外真剣に部活やってたよな」
「それ銀時が言う?」
「お前は一番練習をサボっていただろう」
「そうじゃ。探すの大変だったんじゃきー」
「いやいや何言っちゃってんの。バンドのメンバーだって俺が集めたんだぜ」
「集めたって言っても私はほとんど無理矢理だったじゃん」
***
「なぁなぁ、どうやったらモテると思う?」
新しい高校生活が始まって一週間、隣の席の銀髪の言葉に「は?」とだけ返した。
「だから、どうやったらモテるかって聞いてんの」
「…サッカー部のエースになれば」
「おま、簡単に言うなよ。サッカー部のエースなんてそんなすぐなれるもんじゃねェんだぞ?」
「じゃあ野球部の「坊主にはなる気ねェから」
「じゃあバスケ部の「あ、言い忘れてたけどめんどくさくねェので頼む。こう、パッとできるような」
「………バンドでも組んでボーカルすれば」
「…なるほどな」
ほとんど投げやりに返した言葉に坂田はそうかそうかと頷いた。私には更々興味のない質問からようやく解放されて一安心だ。
「待ってろ。すぐメンバー集めっから」
いや、待ってろって何。そういうのは勝手にやってください。
教室内を駆け回っている坂田に心の中で呟いた。
坂田が勧誘しているらしい人物は桂と高杉。たしか小学校から一緒だったとか言っていた気がする。まぁ仲がいいんならいいと思う。うん、がんばれ。そんなことを考えていると坂田が戻ってきた。桂と高杉を連れて。
「よし、メンバー集まったぜ」
「おめでとう」
自分の席に座った坂田とその前に座った桂、そして私の前に座った高杉。なんだろう、いやな予感だ。
「…スリーピースでやるの?」
「グリンピースじゃねェよ」
「いや、三人でやるの?」
「は?何言ってんだよ。なまえもやんだろ」
「…まずさ、何でいきなり名前呼びになってんのかな」
「バンドやるにあたって仲の良さは大切だと思うわけだよ俺は。なァ高杉」
「あァ、これからバンド組むんだから遠慮なんざ必要あるめェよなまえ」
いや坂田思いっきり高杉のこと名字呼びじゃん。とは思ったけど口には出さなかった。
「それから、一番言いたいことなんだけどね、私バンドやらないよ」
「いやいや何言っちゃってんの」
「だから、私は軽音楽部に入る気ないよ」
「…そうかよ」
そう言って坂田は立ち上がった。申し訳ない気もするがこれは仕方ない。続いて立ち上がった桂と高杉を目で追うと、三人は教室から出て行った。
それから十分後、教室に戻ってきた三人を見ればなぜか揃いも揃って笑顔だ。
「出してきたぜ」
「何を?」
「入部届、四人分な」
「…は?」
「もう出しちまったもんは仕方あるめェ」
「これから同じバンドのメンバーとしてよろしく頼むぞ、なまえよ」
「待て待て待て。大体なんで私?」
「女子がいた方がライブで女子も来やすいんじゃねェかと思ってよ」
「何その不純な理由」
「それに男だけじゃむさ苦しいだろ。こんなでけェやつもいるしよォ」
「自分がちっせェからってひがみですか高杉くん」
にらみ合う坂田と高杉。
「なまえ、音楽でこの学校を変えようじゃないか!」
訳のわからないことを真顔で言う桂。
「…ハァ」
こんな変な人たちと短い青春を共にするのはもったいないようなワクワクするような。
「もし本気で嫌だったらやめてもいいからよ、やれるだけやってみようぜ」
「もう入部届出したならやるしかないじゃん」
「ククク、決まりだな」
その時、長身のモジャモジャ頭が笑顔で登場した。
「おんしら楽しそうじゃのう!何やっとるがか?」
「おぅ辰馬、そういやァお前ドラム叩けるっつってたよな。バンドやる気ねェか?」
「面白そうじゃ、わしもやるぜよ」
すんなりとイエスを出したその男子を見上げていると、バチリと目が合った。
「あ、こいつはなまえな。バンドのメンバーだから」
「わしゃ坂本じゃ。よろしくぜよ、なまえ」
「うん、よろしく」
同じクラスではあったけど、坂田や桂や高杉と違って話すのは今が初めてだった。だけどアッハッハという笑い声になんだか安心した。
寄せ集めた色彩