「一曲目できたときはそりゃまぁ嬉しかったけどさぁ、そのあとのテスト散々だったよね」

「だれ一人としてテストのことが頭になかったのが悪い」

「そういうヅラだってテスト直前に慌ててたじゃねぇかよ」

「ここまでバカが揃うのも珍しいことじゃき」


辰馬の発言に三人で黙ってうつむく。………たしかに。普通ひとつのグループに一人や二人は勉強のできる人がいるものじゃないのか。




***


職員室に部室の鍵を取りに行っている桂を教室で待つ。この面倒な作業はいつもじゃんけんで決めているけど、なぜか桂が負ける確率が異常に高い。


「ヅラ遅くね?なにやってんのあいつ」

「銀時てめェ見てこいよ」

「はぁ?なんで俺なんだよ」

「ヅラが遅いんは珍しいぜよ」

「…あ、帰ってきたよ」


ゆっくりと教室の戸を開けた桂の様子はいつもとは違っていた。遅ェよなにやってたんだよ、という坂田の声に返事もしない。ただ、衝撃的な事実を知ってしまった。みたいな顔をしている。


「お前ら、知っていたか」

「………なにを」

「…今日からテスト週間で部室が使えないらしい」


私たち四人は揃いも揃って固まった。今までにない空気が私たちの間に流れる。


「ヅラ、お前それは確かな情報か」

「職員室で顧問にそう言われて帰ってきたところだ。間違いない」

「今日からテスト週間っつーこたァ、来週からテストかよ」

「まじで。どうしよう全然知らなかった」

「こりゃあまっことやばいち」


とりあえず驚きで上げていた腰を全員イスに落ち着ける。会議の始まりだ。


「まだ一週間ある。大丈夫だ落ち着け」

「でも坂田、私たち中間の成績ひどかったよね」

「しかも範囲もよくわからん」

「なんでてめェらちゃんと先公の言うこと聞いてなかったんだよめんどくせェな」

「授業サボるおんしに言われとうないき」

「うん。高杉にだけは言われたくない」

「うるせェな授業出てんなら聞いとけよ」


高杉だって授業出ても寝てるばかりで聞く気なんかないくせに。全員で高杉を軽く睨んでから、会議が再開された。高杉を責めているだけじゃなにも解決しない。


「テストの範囲は今から手分けして調査だ。信頼できるやつに聞くように」

「しかし銀時、範囲がわかったところでどうする」

「放課後、今まで部室使ってた時間で勉強すんぞ」

「…絶対坂田サボるじゃん」

「国語全般てめェが得意なんだからサボんなよ」

「いや、勉強のことになったら高杉だってサボるだろ」

「高杉もサボらないでよ。理数系かかってるんだから」


不安な坂田と高杉を説得して、歴史の坂本、英語の桂と担当が決まった。私は全体的に平均で得意科目も苦手科目も特にないからサポートと聞き役という立ち位置におさまる。


「練習できねェしテストあるし、高校ってだりィな」

「やめるとか言い出すんじゃないぞ」

「高杉が一番やめそうだよなぁ、学校」

「やめてもめんどくせェんだ。やめるわけねーだろ」

「それに高杉がやめたらベースがおらんなるき」

「そうそう。みんなやめるとか言い出さないでよ」


誰か一人でもやめてしまったら、せっかくここまででまとまってきたものが無駄になってしまう。楽しくて夢中になれそうなものを見つけたのに。私は卒業までこのメンバーでバンドを続けていたい。


「…で、今日どうするよ」

「んーそうだよねぇ」

「なんか食い行こうぜ。腹減った」

「高杉、お前は勉強する気ゼロだな」

「範囲わかんねェのにやるもんねーだろ」

「久々にファミレスでも行くぜよ」

「辰馬のおごりなー。パフェ食いてェ」

「私も食べたい!」


桂のため息を聞きながら、私と坂田はるんるんで帰り支度をする。もう一週間後にはテストだけど、その後には夏休みが待っている。どんな夏休みになるだろう。




バカバカリ




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