「なぁ、お前ら」

「あ、銀時。遅かったね」


白いフワフワの頭をぼりぼり掻きながら、銀時がテーブルに戻ってきた。なんだか少しいつもより真面目な顔をしている。


「トイレに、貼ってあった。これ」

「ん?」

「なんだ?」

「高校生バンドコンテスト、これがどうしたがじゃ銀時」

「いや、なんつーかさ。俺らこういうの見つけたらいちいち騒いでたなぁって思ってよ」


なんだ。このムズムズする感じ。懐かしい。懐かしくて眩しくて痛いような。あぁ、またバンドしたいなぁ。


「文化祭以降だったか。校外のライブに出たのは」

「そっか。前半けっこうダラダラしてたんだよね」

「一曲目に時間かかったなぁ。一学期つぶしたき」

「てかそれ、トイレの取ってきたの?」

「そうだけど?」

「返してきなさい」

「あ?なんでだよ」

「お店のものだ、それは。バカかお前は」

「出たいなら店員に言えばいいろー」

「高校生バンドコンテストって書いてあんだろ。こちとら立派な社会人だよ」

「ただのフリーターでしょ」


うるせぇ。そう言いながらも貼り紙を戻しに行く銀時は高校生のときからやっぱり変わっていない。




***


「また坂田いないの?」

「ほっときゃいいだろ。来ねェやつは」


そういうものじゃない。坂田の歌があるからきまるのに。これで何度目だろう。まったく、言い出しっぺなんだから来るぐらいちゃんとしてくれないと。
ポケットから携帯を取り出して坂田の番号を探す。通話ボタンを押そうとしたとき部室のドアが開いた。


「坂田!」

「ドーナツ、食うだろ?」

「帰ろうとしたけど前回なまえにこっぴどく叱られたのを思い出して近くにあったドーナツ屋で言い訳を買って戻ってきた、そんなところだろう」

「アッハッハ、見え見えじゃ」

「うるせェな。いいから練習やんぞ」

「おめェが言うかよ」


相変わらずマイペースな坂田の声で、それぞれが楽器の準備を始めた。もうずいぶんと慣れたこの作業。少しはこんな音にしたいみたいなのも考えられるようになって、曲だってようやく最後まで止まらずに通せるようになってきた。

いつものように坂本のスティックの音から始まって、私と坂本と高杉、途中から桂も加わった前奏に坂田の声が乗っかる。一番、二番と順調に合わせていって以前はあれだけ苦戦していたギターソロも今ではむしろ楽しみながら弾けている。最後のサビで坂田の声量がいよいよ爆発して後は爆音の余韻を楽しむ。

これは、今回は、


「いいんじゃ、ねぇか」

「…だよね。珍しく高杉がそんなこと言うなんて、やっぱり今の、今までで、一番よかったよね」

「俺ら、うまくなったんじゃね?」

「弾いていて気持ちがよかったな」

「爽快じゃ爽快じゃー!」


それぞれ思っていたことはやっぱり一緒のようで、そうだと引っ張り出したドーナツで乾杯をした。


「やべぇ!楽しくなってきた!俺!」

「サボリ魔のくせに」

「ライブに出てみたいろー」

「まだ一曲だろ。気が早ェよ」

「いや、あと数ヶ月後にゃ文化祭だろ。早すぎることもねぇよ」

「そうだな。ん、このドーナツんまいな」

「ほんと。さすが甘党だけあってチョイスいいわ」

「よく一人で並んで買えんな。気色わり」

「んだとてめ!返せその頬張ってるやつ!吐け!」

「二人ともうるさいち。食べたら忘れんうちにもう一回合わせるぜよ」


それでもダラダラとドーナツを頬張って、心地良い余韻を楽しんで、もう一回合わせたらだめだめだったけど、気分は最高だった。




ファイブ・フィート




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