「そういえば!」
「ん?」
「いつくらいだったかなぁ、辰馬違うクラスの女の子に告白されてたよね」
「あーあったなァそんなことも」
「アッハッハ、懐かしいぜよ」
「辰馬が返事を伝えるとこ、四人で必死に眺めたよね」
「今思えば人の色恋沙汰に首を突っ込むなど無粋なことをしたものだ」
「あん時付き合っちょればよかったなぁ」
「え、もしかしてまだ独身なの?」
「…」
「そういえば、銀時とヅラは?二人とも彼女いないの?」
「…」
「…」
「…なまえはどうなんだよ」
「…」
「…うん、なんかさみしいなこれ」
「アッハッハ!似たもん同士の集まりじゃ!」
***
「うっわ!なにお前むかつくなこのヤロー」
「これは、隣のクラスの子か?」
「なに騒いでやがんだよ」
「坂本がね、ラブレター貰ったの。どうしよう」
「どうしようってどういう意味じゃ」
「へェ、オメデトウ」
「高杉、棒読み」
「誰だこれ出したやつ」
「隣のクラスの、かわいい子だよ」
「あー見たことある」
坂本の机に広げたかわいらしい文字の並ぶラブレター。坂本がそれを見せびらかしてきたときはなぜかかなり驚いた。まぁでも坂本は背高いし優しいしお金持ってるし、モテるのか。
「で、返事どうするの?」
「ん?断るき」
「は?なに言ってんだよお前!」
「別に顔も悪くねェんだし付き合っときゃいいだろ」
「後悔しても知らんぞ」
「もったいなーい」
「アッハッハ、おまんらが決めることじゃなか」
返事してくるろーと言いながら坂本は教室を出て行った。ラブレターを見てみると明日の放課後、屋上で待っていますと記されていた。迷うことなく四人で向かう。
屋上に着くと坂本と隣のクラスの女の子が向かい合わせで立っていた。私たち四人は屋上のドアを少しだけ開けて並んで覗く。
「あの、来てくれてありがとう。いきなりごめんね」
「いいや、このラブレター、嬉しかったぜよ」
「あの…私、坂本君のことが好きなの。付き合ってもらえませんか」
なんだかすごく青春の1ページという感じがする。そんな光景を密かに覗いていることに今更ながら罪悪感が湧いてきた。
「悪いけんどわしにはやりたいことがある。それとおんしと、両方に気を入れられるほどわしは器用な男じゃないき」
「それじゃあ、」
「おんしとは付き合えん」
「そっか…」
「すまん」
「ううん。そのやりたいこと、頑張ってね。応援してる」
「アッハッハ、おんしは優しいのう。わしよりもっとええ男がいくらでもおるぜよ」
「…ありがと」
ふわりと笑った女の子はさみしそうだったけど本当にかわいかった。だけど、これは危ない。女の子は私たちのいるドアの方に向かってきている。どうしよう。
「おい、ぼさっとしてんな」
小声で高杉に引っ張られる。見れば坂田と桂は掃除用具入れのロッカーに隠れる最中だった。二つあるそれはすでに二人によって埋まっている。え、どうするんだろうこれ。
「え、高杉どうするの。もう隠れるとこない」
私があたふたしていると高杉は私を引っ張ってロッカーの後ろの不自然な隙間に入った。なんだここ。狭い。というより近い、高杉と。
「あの、」
「うるせ、黙ってろ」
そういえば、今気付いたけど高杉に右腕をきつく握られている。なんだかもう、女の子に見つかるドキドキと急いだドキドキといろんなものでめちゃくちゃだ。
「そろそろ行ったか?」
「え、あ、うん。もう足音も聞こえないし」
高杉に促されて隙間から脱出する。坂田と桂もロッカーのドアを開けて出てきた。埃だらけの制服をパンパンとはたく。
「危ねェ危ねェ」
「ロッカーを少し前にずらしておいて正解だったな」
「あァ。つーかなまえはぼさっとしすぎなんだよ。俺が引っ張らなかったら確実に見つかってたぞ」
「え、待ってみんなこれ予想済みだったの?知らなかったの私だけ?」
「そういうこと」
「懐かしいな。昔もよく悪さをして隠れていたものだ」
あぁそういえば、この三人は小学生の頃から一緒だったと坂田が言っていた気がする。
その時、ガチャリと屋上のドアが開いた。
「あ、」
「おんしら、バレバレじゃき」
「坂本!かわいそうだよ!」
「お、お?なんろーそんなに怒って」
「自分よりいい男がいるなんて、あの子は坂本のこと好きなんだからそんなこと言ったらかわいそう」
「珍しくなまえが怒っているな」
「まァでもやりたいことっつーのァバンドなんだろ?」
「当たり前じゃ」
「あの子のためにも、ちゃんと頑張らないとね」
「いいよなァ、お前はもうファンがいて。なんだよ身長も髪型も俺と大して変わんねーじゃねェか」
「アッハッハ、男は見た目じゃないろー」
今日はやけに坂本がかっこよく見えたりする日だった。
ベタの定理