「俺ァ高杉は最初からなまえのこと気に入ってたと思うぜ」
会話の途切れに唐突に投げ込まれた銀時の言葉。驚いているのは私だけらしい。
「あいつァ極度のめんどくさがりだぜ?」
「あの高杉が誰かの個人練に付き合うなんて初めは驚いたものだ」
「うーん、最初はただ単にバンドのためだったんじゃない?晋助ってバンドのことになるといつもと性格違ってたし」
なんだか普段の学校生活よりやる気があるような感じだった。授業をサボって放課後の練習には来ていたのがなによりの証拠。
「高杉は嫌いな奴にははっきりしゆうよ。いくら頼まれても自分の時間嫌いな奴に使うば考えれんことじゃ」
「全くわかりやすいやつだ」
「あいつァ好き嫌いが激しすぎんだよ」
「あーあ、晋助がここにいたら文句だっていっぱい言えたのに」
私の発言で三人は黙ってしまった。それもそうかと自分の言葉に軽く後悔。
「そうだ、私の家この近くだしお酒買ってうちで飲もうよ」
「俺ァ別に構わねェけど、」
「あぁ、しかしな」
「ん?なに?」
「アイツのことだから来ねェかもしんねーけど、一応ここの場所は伝えてあるんだぜ?」
「私は別に」
「まァお前が言うなら俺らはいいけどよ」
「……もう!みんないじわる。銀時のバカ」
そこで黙って聞いていた辰馬が大きな声で笑い出してガシガシと私の頭を撫でた。
「ちょ、辰馬?」
「おんしはほんっにかわええがじゃ」
うんうんと頷きながら未だガシガシと撫でられる。
「高杉に会いたいんじゃろう」
「私は…ただみんなで揃いたいの。みんなだってそうでしょ?みんな揃って楽しかったじゃない」
「それもそうだな。まぁ俺はなまえをからかって遊びたかっただけだしー」
「なまえはからかいがいがあるからな」
「辰馬どうしよう」
「なんろー?」
「ヅラにからかわれた」
また大きく辰馬が笑う。
私はただ本当になにか物足りない四人よりもあの頃のいつもだった五人で思い出話をしたいだけ。高杉に会ったらこの気持ちがどう変化するかはわからないけど今はそう思っている。
***
「なまえ最近さァ、ギターうまくなってきたよな」
部室に行く前、放課後の教室で坂田、桂、高杉、私でダラダラ過ごしているといきなり坂田がそう言った。坂田はよく唐突に話題を放り込むタイプだと思う。
「ほんと?」
「あァ、最初んころより全然」
「そうだな。俺もそう思うぞ」
「最初のころよりって、上達してない方がおかしくない?」
「いや、なんつーかよ。技術の上手い下手は俺はわかんねーけど、落ち着く音になったよな。歌いやすいっつーか」
「そう、かな」
「最初がひどかったからなァ」
くくくと高杉が笑う。ひどいやつだと私は反論する。だけど、やっぱり坂田の言葉が嬉しくてバレないようにこっそりニッと高杉に笑った。
「そういえば軽音楽部に入って一ヶ月も経つんだな。早いものだ」
「初心者でも頑張ればやれるもんだね」
「そろそろ部室行くか」
「辰馬の奴いつまで捕まってんだよおっせェな」
「高杉もほんとは捕まるはずだったくせに」
英語の課題を提出し忘れていた坂本は厳しい英語教師によって連行されていった。授業中に課題を回して見せあっていた私と坂田と桂、放課後になって学校にやって来た高杉はそれを免れたけど、危機感なく授業中爆睡していた坂本は未だに帰ってこない。
「めんどくせェ。適当に抜け出しゃいいんだよあんなもん」
「ビビって休んだくせしてよく言うぜ」
「あ?んだとオイ」
「まぁまぁ、どうせ時間はいっぱいあるんだしいいでしょ」
「ライブの予定があるわけでもないしな。大丈夫だろう」
「まァそういうとこ考えりゃうちの文化祭は秋で良かったよな。一学期にやるとこもあるみてェだし」
「一学期にあるならあったでそれまでに完璧にするだけだろ」
「…ほんと良かったね、秋で」
「な?だから言ったんだよ」
もしこの時期に文化祭をやられていたら本当に地獄だったかもしれない。ふぅと胸を撫で下ろす。
その時、教室のドアがガラリと開いた。
「終わったぜよー。アッハッハ、疲れた疲れた」
「全然疲れてなさそうだね」
「こがに時間かかる思うちょらんきに」
「あんなババァ適当におだてて出てくりゃいいだろうが。ガキじゃあるめェし」
「それがそう上手いこといかんかったんじゃ」
「お前でも厳しかったのかよ。なかなかやるなあのババァ」
「そこら辺の奴らとは経験値が違うらしいな」
「いや、四人そろってなんの話してんの」
「まぁ次からは大丈夫じゃき安心せぇ」
男子だなぁ。いやいやそれより次からは大丈夫ってまさかあの先生をたらしこんだのか。坂本がそんな奴だったなんて。
「アッハッハ、なんちゅう顔しちょうがか」
「男子高校生の実態を知ってしまった」
「なまえも気をつけろよー?いつか辰馬に襲われんぞ」
「そうじゃそうじゃ。ガオー」
「ククッ、あの先公もその手で落ちたのかァ?」
「坂本もなかなかの経験値だな」
「は?なに?からかってる?」
「やっと気付いたかよ。お前おもしれェな」
「あの先公たぶらかすなんざ無理無理。しっかりしぼられてきたんだろ?辰馬」
「まっこと疲れたぜよ。こっちの言い分なーんも聞いちょらん」
「言い分もなにも爆睡していたお前が悪いのだろう」
「なにそれ。うわ、うわー」
「かわええやつじゃ」
「騙された。桂にまで騙された」
「なんだその言い方は。俺の方が経験値が上ということだな」
なにそれ流行ってるのか。経験値ネタ流行ってるのか。
「もういいや。早く行くよ」
「拗ねんなって。ヅラにまでからかわれたからってそんなに拗ねることねェだろ」
「そんなに気にすることじゃねェさ。まァヅラにまでからかわれちゃ終ェだけどなァ」
「なまえも経験値を上げることだな」
「あーもううるさいうるさい。そうやってみんなで私をバカにしてればいいですよ」
「アッハッハ!」
坂田と高杉のニヤリ顔。桂のドヤ顏。坂本のカラッとした笑い声。不覚にも放課後には悪くない賑やかさだと思ってしまった。
黒板とギターケース