「みんなまだ楽器持ってる?」

「あったりめーだろ」

「銀時、お前はボーカルだろう」

「大切にマイク保管してんだっつーの」

「辰馬は元から持ってたけどまだあるの?」

「当たり前じゃき。今じゃ防音の部屋作って時々叩いちょる」

「さすが社長。私も辰馬ほどじゃないけど一応一人暮らし始めてもギターは持って出たよ」

「俺もあの時買ったキーボードは変わらずとってあるぞ」

「晋助もまだ大切に持ってるのかな」

「アイツはまだ持ってるだろうよ。辰馬以外で最初に楽器買ったの高杉じゃなかったっけ?」

「バイト代全部つぎ込んだって言ってたもんね」

「案外奴が一番早くのめり込んだのかもしれんな」

「そうだね。あ、辰馬!私ずっと辰馬に返さないとって思ってたんだけど、今日ちゃんと持ってきたよ。忘れなくてよかったぁ」

「ん、なんじゃ?」


これ。と封筒を手渡す。中身を確認する辰馬。あの頃は大金と感じていた数枚の一万円札を見て、辰馬はニッコリと笑った。


「いらんぜよ、ワシを誰だと思っちゅう」


変わらない辰馬の笑い声はあの時と全く一緒だった。


「あ、俺も借りてたんだったか」

「俺もだ」

「おんしらは返せ」


この黒い笑みもあの時と全く一緒だった。




***


朝の教室で坂田とこれからのことについてプチ会議。といってもどんな曲をやりたいだとかライブではこんなパフォーマンスをしてみたいだとか、そんなアバウトなものばかり。


「ぷ、あれ見てみ?」

「ん?」


坂田の指差す先を見てみると、高杉がたった今登校してきたところだった。だけどいつもの高杉とは違う。背中に大きな何かを背負っている。


「ランドセルに背負われる小学生みてぇ」

「え、てか、あれ」

「ベースだろ?そういえば昨日買い行くとか言ってたわ」

「え、ずるいもう買ったの?」

「らしいな」


おう高杉ー。と坂田が呼ぶと、高杉はいつも以上に鋭い目つきでこちらを睨んだ。


「んだよ」

「いやー、お前と違って大きいな。そのベース」

「あ?うっせェよ白髪」

「まぁまぁ、それよりなんで今日楽器持ってきてんの?」

「今日から練習開始すんぞ」

「は?高杉おめーバカなの?まだ曲も決まってねぇじゃん」

「部室使えんのに使わねぇのはもったいねェだろ」

「え?」

「使えんの?」

「お前ら、話聞いてなかったのかよ」


ハァと呆れ顔の高杉の話を二人で真面目に聞く。ごめんなさい。
高杉によると、一週間ほど前に五人で参加した入部説明会で部室の使用についてという説明がされていたらしい。部長いわく我が校の軽音楽部は人気もやる気もないらしく、基本的に部室は使いたい時に使えるらしい。しかもそれが丁度今日からとのこと。え、ほんとに知らなかったよそんなこと。


「ぜってぇヅラたちも知らねーぞ」

「私もそう思う」

「なんなんだよお前ら」

「てことで私たち楽器ないから今日はできないよ」


自信満々に高杉を見上げると、フゥ、と肩にかけた楽器を下ろした。なにこれ、無言の圧力。


「行くぞ」

「へ?」

「今から買いに行くっつってんだよ」

「バカなの?高杉お前バカなの?」

「俺は今日やりてェんだよ。つか、やんだよ」


そう言って高杉はポケットから携帯を取り出した。電話をかけるらしい。その間も私と坂田はなにやってんのコイツという目で高杉を眺める。


「決定だ。ヅラたちにはもう楽器屋行かせてるから俺らも早く出んぞ」

「え、え?え?」

「高杉くん?本気で言ってんの?授業どうすんだよ」

「なに真面目ぶってんだよ。そんくらいサボりゃいいだろーが」


なにこの独裁者。
よっこらせと再度ベースを背負い直した高杉に、私たち二人はもうなにも言わずついて行くことにした。


前にみんなで行った楽器屋に着くと、桂と坂本はすでにいろんな楽器を見ていた。


「お、ようやく来たか」

「遅いぜよ」

「いや、なんでふっつーに学校サボってんの」

「俺ァヅラはもっと真面目な奴だと思ってたぜ」

「俺は友情第一の熱い男だからな」

「よっしじゃあ気合い入れて選ぶとするか」

「てめェはボーカルだから選ばなくていいだろ」

「俺だってマイク買いますーマイ楽器持つんですー」

「おいお前ら俺の言葉は無視か」

「てかいっぱい種類あってどれがいいか全然わかんないんだけど」

「なまえまで!」


桂の言葉は無視しつつ、色とりどりのギターが並べられているゾーンへと足を運ぶ。ほんとにいろんな種類があってどれを選んだらいいのか全くわからない。


「ギター、弾かれるんですか?」


ギターを見てるんだからそうだろう、とも思ったけどこの店は大通りに面した良い立地条件によりただ見にくるだけの客も少なからずいるのかもしれないと考え直した。


「いや、これから始めようと思ってるんですけど」

「部活かなんかですか?」

「はい、軽音部なんですけど、どんなのがいいですかね?」

「好みによりますねー。どんな音を出したいかによっても変わってきますし」

「うーん…」

「とりあえず初心者でも扱いやすいの」

「あ、はい、えっと」


いきなり入ってきた高杉に驚いたのは私だけじゃないらしく、むしろ店員さんの方が慌てて目当ての楽器を並べてくれた。


「これなんかはあまり重さもないですし扱いやすいかと。こちらはデザインが女性のお客さんに人気ですね」

「軽い方がいいんじゃねェか」

「んー…ちょっと掛けてみていいですか?」

「もちろんよろしいですよ」


店員さんに丁寧に渡されたギターを肩にかける。確かに思ったよりも軽い。


「しっくりきてねェみたいだな」

「あ、わかる?」

「少なくとも三年は使うんだ。扱いやすいだけじゃもの足んねーな」

「それならこちらなんかはどうでしょう?少し重みはありますが自分の好きなように音に味を出せますし信頼できるメーカーだと思います」


今度は大絶賛のそのギターをかけてみた。確かにさっきのものよりも重い。だけどなんだかしっくりと来る。いじる所も多くあるそれは三年間使ってもまだ全てを使いこなせそうにはなかった。


「いいじゃねェか」

「意見合うねー」

「ハッ、決まりだな」

「よろしいですか?」

「はい、お願いします。あ、」

「なんだよ?」


私が坂田たちのいる方に目をやると、向こうは向こうでもう決まったらしく店員さんは察したようにこちらへどうぞと言ってくれた。


「どれどれ」

「かっこいいでしょー」

「なかなか似合うな。俺のこのキーボードも良いだろう」

「ヅラは一番安いのを選んだんじゃ」

「そうじゃない!この繊細な音に聞き惚れたんだ」

「はいはい。坂田は?」

「俺の相棒はコレだ」


じゃじゃーんとわざとらしい効果音を作った坂田は自慢そうにマイクを高く上げた。正直私が今まで見たことのあるマイクとなんら変わらない。


「マイク売っちょらんかったき店員に無理言ってスタジオのマイク売ってもらったんじゃ」

「坂田らしいなぁ」

「部室にもあんだから無駄に買ってんじゃねェよ」

「うるさいですー俺の自由ですー」


それではどちら様からお会計いたしましょうか。
店員さんの声で私は思い出した。重大な事実を。


「私、今日、三千円しか持ってない…」

「あ、俺も」

「お前らバカだな。俺は四千円持っているぞ」

「いや、ヅラも含めて三人まとめてバカだろ」

「ヅラとまとめてんじゃねーよ」

「だって!今日楽器買う予定じゃなかったもん!いきなり高杉が言い出したんだもん!」

「あ?俺のせいかよ」

「そうだな。ということで高杉が出しなさい」

「あぁ?ふざけてんじゃねェよ天パが」


いや、ほんとにどうしようか。お金のことすっかり忘れてた。店員さんめちゃくちゃ困った顔してるし。


「あのー、」

「おんしら仕方ないのう。ワシに任せちょれ」

「さ、坂本さん…!」

「アッハッハ、こんなこともあろうかと来る途中でおろしてきたき」

「そのためにコンビニに寄ったのか!」

「辰馬お前ほんといい奴だな。尊敬するぜありがとう」

「ごめんね。絶対返すから」

「いいきいいき。ワシを誰だと思っちゅう」

「あざーす」

「恩に着るぞ」

「おんしらは出世払いじゃ」

「はー?なんだよそれーヒイキかよー」

「女子には優しゅうするもんじゃ」


ようやくまとまった私たちに、店員さんはスマイルを一つ残して会計を始めた。
坂本の財布からバサッと出されるお札たち。ほんとにいいのかなぁ。坂本はああ言ってくれたけど返せる時がきたら絶対に返そう。


「よし、じゃあ会計終わったら帰んぞ」

「ファミレス寄って帰ろうぜ。パフェ食いてぇ」

「ついでにボウリングでも行くがか」

「そうだな。放課後になったら戻ろう」

「なにしに学校行ったんだろ」

「いいじゃねェか、気に入る楽器も手に入ったんだしよ」


それもそうか。とあっさり意見を変える私はだいぶこのメンバーに毒されてきているようだ。




ラウドスピーカーで叫ぶ




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