もう大分熱くなくなったドリアを一口頬張る。変わらない味と少しだけ変わったみんながやっぱり懐かしい。


「パート決め、ものすごい苦労したの覚えてる?」

「そういえばそうじゃったのう」

「でも結果的にあのパートになって良かったと思うよ」

「俺ァヅラがボーカルんなっちまったらどうしようかと思ったよ」

「いいや、俺が歌っていればメジャーデビューも夢ではなかったぞ」


それはないだろうと三人そろって笑った。それに、卒業式の次の日に晋助がいなくなったんだから現実的に考えてもありえない。


「でもヅラ楽しそうにキーボード弾いてたじゃん」

「俺は一度決めたことは最後までやり通すタイプだからな」

「アッハッハ、ゲームに負けたくせしてよく言うぜよ」

「あの寿司は美味しかったぞ」

「今考えてもあのルールおかしいと思います。なんで俺があんな目にあったの?嫌がらせ?」




***


「うっわ、ひろーい。坂本ってお金持ちだったんだ」

「なまえ、欲しいもんがあったら辰馬に頼めよ。アイツァいくらでも貢いでくれるぜェ?」

「高杉、おんしには一生奢らんぜよ」

「ははは、ザマーみろ高杉。友達とはうまく付き合ってくもんだぜ?」

「辰馬はデケェ野郎だ。俺の一言なんざ痛くもかゆくもねェよ」

「…ヅラ!何しちゅうか!」

「いや、すまぬ。この壺に俺のんまい棒が全部入るか確かめていてな」


玄関に置いてあるいかにも高そうな大きな壺に、桂はどんどんんまい棒を突っ込んでいる。どんだけ持ってるんだこの男は。そしてどんだけバカなんだ。


「オメーの鞄の中のぐれェ入るに決まってんだろ!壺のサイズ見てみろ!」

「ヅラァ、それ割っちまったら弁償だな。友達とはうまく付き合ってくもんだぜェ?」


坂田のセリフを完全にパクった高杉は自慢気に言っている。


「アッハッハ、おんしらもう大人しくしちょれ」


坂本に促されて私たちはリビングに向かった。


「今日は誰もおらんき自由に寛いどっていいぜよ。今飲み物持ってくるき」

「ありがとー」


フカフカのソファーに沈んで部屋を見回した。広い。
坂田たちはもう慣れているのか驚いてはいないけど、壁に掛かっている絵を裏返している。


「ヘソクリとかあんじゃね?」

「銀時、そういう泥棒みたいな真似はやめろ。みっともない」

「ヅラァ、テメーが一番困ってんだろ?その髪のシャンプー代」

「高杉お前はバカか。シャンプー代に困るくらいならもっと先に他のことに困っておるわ!」


坂本くーん。早く戻ってきてー。


「オレンジジュースで良かったか?」

「あ、ありがとう」

「よし、じゃあパート決め再開だな」


何事もなかったように坂田と高杉もテーブルについた。大体、そんなベタなヘソクリの隠し方はしないだろう。


「さっきのカラオケで分かったと思うけど、ヅラはねェだろ?」

「俺か銀時だな」

「待て、俺は諦めんぞ」


確かに、ボーカルはできれば坂田か高杉にやってほしい。ボーカルを決めるためにカラオケに行って三人の歌を聞いたわけだけど、うん。桂には楽器を弾いてもらいたい。


「うーん、どうする?」

「運だめしで決めるのはどうじゃ?」


運だめし?坂本以外の全員が頭に疑問符を浮かべた。


「さっき冷蔵庫を見たら寿司が入っちょった。どれか一つにワサビを入れてそれが当たった奴がボーカルじゃ」

「おいおい、ヅラに当たっちまったらどうすんだよ」

「このバンド終わるぜェ」

「運も実力のうち言うじゃろ。そうなったらわしらの運がないかヅラが強運だっただけの話じゃ。後者ならもしかしたらうまくいくかもしれん」

「おもしれェ」

「お、おーい。晋助くん?なに乗せられちゃってんの?」

「運だめしといこうじゃねェか」


ハァ、と大きくため息を吐いたのは坂田。
私は坂本と一緒にお寿司の準備に向かった。




「はい、おまたせー」

「うわ、うまそ」


お皿に並んだ三つのお寿司を眺める三人。桂は真剣な顔で高杉は楽しそうな顔、坂田ははやくお寿司を食べたそうな顔をしている。


「好きなのを選んで一斉に食べてください。ちなみに、当たりには大量にワサビが入っているので気をつけてください」


本当に大量に。多分食べたら号泣するだろうな、と思う。だけど「いっぱい入れんと区別がつかんき」という坂本の発言に後押しされて私が大量にワサビを入れた。


「俺ァこれだ」


高杉が真ん中の一つを箸でつかんだ。


「俺には見える!これが当たりだ!」


桂が右端の一つを箸でつかんだ。


「あれ、これって当たった人つらくね?罰ゲームじゃね?」


今更気付いた坂田が残った一つを箸でつかんだ。


「はい、じゃあ…せーの」


パクリ。

モグモグと動く三人の口。

ピタリと制止した坂田の体。


「かっれェェェェ!なにこれバカなのか、ねェバカなの!?」

「おめでとう坂田君。あなたがボーカルです」

「え、ちょ、まじ、やばいって」

「チッ、しょうがねェな。音外したらぶっ殺すぞ」

「ねぇ、お、おーい」

「銀時、悔しいがお前に任せるぞ」

「あれ、ちょ」

「アッハッハ、よかったのう銀時」

「…」

「じゃあ他はどうする?」

「俺ァベースやるぜ」

「あれ、高杉はボーカルじゃなかったらギターがいいのかと思ってた」

「低い音の方がかっこいいだろ」

「じゃあ俺はキーボードをやろう」

「じゃあ、私がギター?」

「決まったぜよ」

「ボーカル以外はすんなりだったね」

「…銀時、オメェなに泣いてんだよ」

「そうか、そんなにボーカルがやりたかったのか」

「…」

「坂田、やっぱりワサビ…入れすぎ「泣くほど喜んでくれるとは思わんかったぜよ」

「…………………ぜんっぜん嬉しくないんですけどォォォォ!かれェよ辛すぎんだよボーカルやる前に喉枯れたらどうしてくれんだよコノヤロー!」




声量はバンド内一




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