私はドリアで銀時がハンバーグ、ヅラが丼もので辰馬がステーキ。それぞれ注文した料理がテーブルに並ぶ。最初に運ばれてきたポテトはすでになくなってお皿だけの状態になっている。


「懐かしいね」

「あァ」

「どうしたんだ?」

「ヅラは気付かんか?」

「だからどうしたんだ三人揃って」

「このメニュー見てなんとも思わないの?」

「…なるほど、変わってないな」


このメニューはいつも私たちが頼んでいたもの。初めの頃はそれぞれ色んなものを頼んでいたいたけど、頻繁に通いまくった所為か最終的にはみんな今並んでいるメニューで決まっていた。
そういえば最初にみんなで来た時もこんなメニューだったような気がする。




***


「あー、腹減ったァ」

「店員は呼んだからテメェら早く決めろよ」

「高杉オメー明らかに早ェだろ!」

「私まだ決めてない」

「蕎麦が食べたいが仕方ない、俺はまぐろ丼にしよう」

「はよう決めんと店員が来るぜよ」


そうこう騒いでいる間に「お待たせしました」と丁寧な物腰の店員さんがやって来た。


「俺ァオムライス」


いち早く店員さんを呼んだだけあって高杉はすぐにオムライスを頼んだ。なかなか似合わない。


「俺はまぐろ丼で」

「わしゃステーキぜよ」

「えっと、私はドリア」


私たちが頼んだものを店員さんが復唱していく。残すは坂田だけだ。


「坂田は?」

「銀時ィ、あとはオメーだけだぜ?早く決めろや」

「うっせェ!…あー、じゃあハンバーグで」


全員のメニューを再度復唱した後の、「以上でよろしいですか」というお決まりの言葉には私がはいと頷いた。


「あ、ちょ、ポテトも!」


この言葉を発したのは坂田。立ち去りかけていた店員さんは振り返って「かしこまりました」と営業スマイルをにこり。

店員さんが去り、私は鞄に入っていたお茶を一口飲み込んだ。実は初めてのメンバーでのこの空間に密かに緊張していたりする。これからこの人たちと音楽、つまりは音を楽しむわけだ。


「さっきの店員ばかわいかったぜよ」

「そうかァ?ああいう清楚ぶってる女は見た目によらず怖ェぜ」

「高杉お前それ明らかに経験談だろ。被害者は語るってやつか?」

「黙れクソ天パ」

「アドレス聞いてこようかのー」

「やめろ恥ずかしい」

「ヅラはお堅いのぅ」

「俺が聞いてきてやろうかァ?」

「アッハッハ、被害者は黙っちょれ」


男子高校生だなーと思いながら四人の会話を眺める。みんな彼女とかいないんだろうか。四人とも中身は別にして見た目は普通にかっこいい。私は友達止まりで充分だけど。


「なまえやけに静かだな。もしかして勝手に入部届出したこと怒ってんの?」

「それはもう気にしてないから大丈夫」

「緊張してんのかァ?」

「……は?」


とは言いつつ図星である。


「心配すんな。お前はとって喰ったりしねェよ」

「お前はってなに。すごく失礼な発言だよねそれ。てか別にそんな心配してないから」

「高杉は少々痛いところがあるから気にしないでやってくれないか」

「ヅラァ、テメーにだけは言われたくねーよ」


ヅラじゃない桂だ!黙れキューティクル野郎!なんだとお前もこの中ではキューティクル派じゃないか!鬱陶しい長髪と一緒にしてんじゃねェよ!
飛び交う声に思わず笑いが漏れた。


「はい、じゃあなまえの元気も出たところでぇ」


坂田はパンパンと手を叩いて、司会者のような口調でわざとらしくしゃべり始めた。


「パート決めをしたいと思います」

「辰馬はドラムだろ?」

「アッハッハ、決まりぜよ」

「坂田はボーカルがしたいんでしょ?」

「つーかそれは決定事項ですよろしく」

「あァ?なに勝手に決めてんだよ」

「そうだ、ボーカルは俺だ」


バチバチと三人の間で火花が散っている。なんだか面倒くさいことになりそうだ。


「……ボーカルは俺だ!!!」


三人揃ってのボーカル宣言に周りの客の視線が一気に私たちに集まった。坂本を見れば楽しそうに笑っているし、私はアタフタとすることしかできない。


「高杉はまだいいとしてヅラはド音痴じゃねェか」

「音痴じゃない桂だ!」

「はい却下ーオメーは却下ですー」


小学生みたいに嫌みったらしく言う坂田に桂は机をバン!と叩いた。
もうお願い。恥ずかしいからやめて。


「お、お待たせしました」


申し訳なさそうに店員さんがポテトを運んできた。私たち全員の視線が店員さんに向いたことで、更に引きつった笑顔になったように見える。
テーブルの真ん中にポテトのお皿を置いた店員さんに軽く会釈をする。


「とりあえずパート決めはまた今度にしよ、ね?」

「…まァ、すぐ部活があるわけじゃねェしな」

「そうそう。放課後にでもこういう賑やかじゃなくて真剣に話し合えるような場所でさ」


恥をかかないような場所で。


「じゃあ食べるぜよー!」

「てめっ待て!なに俺が頼んだポテト食おうとしてんだよ!」

「セコいこと言ってんなや銀時ィ」

「男子たるもの常に大きな器を持ち合わせていないとな」

「いただきまーす」




ザ・ファーストタイム




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