「日吉、戦争だ」
ファミレスの一角。
神妙な面持ちで唐突にそう言った向日さん。
向日さんの言っていることも、俺だけがここに連れて来られた訳も、全くもってわからない。
「…どういうことですか」
「どうもこうもない!戦争だ!」
向日さんはぐわっとこちらに顔を向けて叫ぶと、一気にオレンジジュースを飲んだ。
そして、ぼそぼそとこの現状に至った理由を語りだした。
「いいか、俺たち氷帝レギュラーは…8人中5人がホモだ」
「………」
「滝を入れたら9人中5人になるけど、結局は半分以上がホモなんだよ」
ホモばっかりなんだよ!と、悲壮感を漂わせて(あくまでも小声で)叫んで、力尽きたかのようにテーブルへと突っ伏した。
目の前にある向日さんの旋毛を見ながら、向日さんを悩ませるホモたちを思い返す。
確かに向日さんの言う通りレギュラーはホモばかりで、尚且つ練習中であろうと暇さえあればイチャイチャしているから目に余るとは思うが…
「かなり今更だと思うんですけど」
それは今に始まったことではなく、数ヶ月前――ホモ達が付き合いだした頃からほぼ毎日広がっている光景だ。
それを、何故今になって持ち出してくるのかがさっぱりわからない。
「俺は、しばらく放っておけばアイツ等も落ち着くだろうと思ってたんだよ!なのに…毎日毎日イチャつきやがって!クソクソ!」
「…はぁ、それで?」
「だから、俺とお前でアイツ等をぎゃふんと言わせてやろうぜ!」
向日さんの言いたいことはわからないでもない。
他人のイチャつきを毎日見せられることに腹が立つのも、仕返しをしてやりたいと思うのも、理解できる。
しかし…何故それを俺も一緒にしなければいけないのかがわからない。
というか冒頭の戦争ってこのことだったのか。
「どうして俺もしなくてはいけないんですか」
「お前がホモじゃないから」
「……」
な ん だ そ の 理 由!
もし俺が隠れホモだったらどうするんだこの人。
…いやまぁ、ホモじゃないからそれは置いておくとして、
「俺はしませんよ」
「はぁ!?何でだよ!」
「面倒くさいじゃないですか」
「おまっ…このままあのホモ達を野放しにしておいて良いのかよ!」
「少々視界の暴力であることを除けば、別段俺に害はないので」
そこまで言って、頼んでから一度も手をつけていなかった烏龍茶に口をつけた。
特別美味いわけでも特別不味いわけでもない、極々普通の烏龍茶を三口ほど飲んだ時、向日さんがため息を一つ吐いて口を開いた。
「仕方ない…日吉」
「なんですか」
「濡れ煎餅1週間分」
「!!」
すっと人差し指を立ててそう言った向日さんに、思わず席を立ちそうになったがなんとか堪える。
平静を装いながら烏龍茶を一口飲み、1週間分の濡れ煎餅とホモ撃退を天秤にかける。
結果は考えるまでもなく濡れ煎餅に傾くのだが。
「向日さん、頑張りましょう」
「さっすが日吉!打倒ホモ!目指せ平和な部活!」
こうして、向日さんと俺によるホモ戦争が幕を開けたのである。
第一次ホモ戦争
(打倒ホモ!)
(目指せ平和な部活!)