真っ直ぐに前を見据えた瞳。
ユニフォームから覗くすらりとした手足。
意外と手触りの良いさらさらの髪。
“宍戸亮”という人間を構成する全てが、愛しく感じる。
なんてぼんやり考えていると、大きな声で名前を呼ばれた。
「長太郎ー!」
「…え、あ。なんですかぁー?」
「なんですかぁー、じゃねぇよこのバカ!お前のサーブだって言ってんだろ!」
バカかと怒鳴りつつ向かいのコートから歩いてきた宍戸さんに、バシッとラケットで頭を叩かれた。
俺がなかなかサーブを打たないことにかなりご立腹の様子。
ぶつぶつと文句を言っている宍戸さんに苦笑を浮かべつつ謝れば、またバシッと頭を叩かれる。
「ニヤニヤしてんじゃねぇ!ったく…調子悪いなら休憩にするか?」
バカだ何だと怒鳴っておきながら、何だかんだで心配してくれる宍戸さんにきゅんとしつつも、首を振る。
「大丈夫です。次はしっかりサーブ打ちますね!」
「そうか?…じゃあ続けるか」
「はい!」
「言っとくが、次ボーッとしてたら許さねぇからな!」
そう言ってスタスタと自分のコートまで戻っていった宍戸さんの背中を見送り、手の中のテニスボールをぎゅっと握った。
「いきますよー!」
「おー!」
大きく空へ向けてボールを放つ。
狙いを定めてラケットを降り下ろす。
バシッと宍戸さんのコートに入ったサーブは、なんなく打ち返されてしまった。
そうしてしばらくラリーを繰り返していると、ふと頭を過った考え。
「宍戸さん、ひとつ、お願いしてもいいですか?」
「あ?」
「俺が、このゲームに勝ったら…」
俺を愛してくれますか?
[ぽとっ…]
(あ。15-0ですね!)
(…は、はぁぁ!?今のはナシだろ!?てかお前いきなり何言ってんだ…!)