ここ最近、身だしなみにより気を遣うようになったのは、ずっと想っていたあの人と付き合うようになったから。
照れ臭いからこんなこと本人には言わないけれど、俺を好きだと言ってくれたあの人に、もっと綺麗に見られたい、もっと気にして構ってほしいと思ったんだ。


「…何勝手に人の心ん中偽装して語ってんですか」

「日吉は素直じゃないから優しい先輩が日吉の本音を語っ…痛っ!」

「そんなに縮みたいんですか?」

「痛っ!ちょ、悪かった!悪かったから頭押さえつけんな!つか縮みたくねーし!離せよくそくそ!」


十数センチ程小さい向日さんの頭をぎゅうぎゅう押しながら、小さく息を吐く。
向日さんが勝手に語った冒頭文を、全て否定する訳ではないが、ほぼ90%は嘘だ。
ここ最近トリートメントを変えたが、それは、断じてあの人と付き合うようになったからではない。
ただ母がいつも使っているヤツと間違えて買ってきたからであって、あの人に綺麗に見られたいだとか、あの人に気にしてほしいだなんて、全くもって思っていない。これは照れでもなんでもない。事実だ。


「…日吉…そろそろ岳人離してやらんと、元々少ない岳人の脳細胞が死滅してまうで?」

「テメ…侑士!なんてこと言うんだよ!」

「本当のことじゃないですか。でも良かったですね、向日さん。向日さんの脳細胞を心配してくれる友人がいて」

「うるせぇ!ちょっとデカくて頭良いからってバカにすんな!!」


ぎゃーぎゃー騒ぐ向日さんがいい加減面倒くさくなってきたので、頭を押さえつけていた手を離す。
途端に忍足さんの背後に回って此方を威嚇してくるから、鼻で笑ってやった。


「テッメェ…鼻で笑いやがって…!超むかつく!滅べ!星へ還れ!」


鼻息荒く(忍足さんの背後から)きゃんきゃんと噛みついてくる向日さんを見ていたら、扉の開く音と共に、聞き慣れた声が部室に響いた。


「おい向日。それは俺様の日吉に対して言ってんのか?あん?」

「げっ…跡部…」

「俺様の日吉に対してムカつくやら滅べやら言ったのか?どうなんだ?ん?」

「……イエ、マサカ!俺は侑士に対してイイマシタ!」

「えっ!?俺!?」

「そうか。ならそのムカつく忍足を体育館裏にでも連れてってボコってこい」

「ラジャー!」


なんでー!?と叫ぶ忍足を全力でスルーし、ズルズルと引き摺りながら、向日さんは颯爽と部室から出ていった。
残されたのは、俺と跡部さんのふたりだけ。


「…何か、用でもあるんですか?生徒会の仕事が忙しいんでしょう?」


なんとなく跡部さんから視線を外してぽつりと呟けば、ふっと笑う声がし、頭をぽふぽふと撫でられた。


「そう拗ねるな。特に用はねぇが…お前に会いに来た」

「は?」

「付き合って早々生徒会ばっかで構えてねぇから、寂しかっただろ?」


緩く口端を持ち上げて笑う跡部さんを、何ふざけた事言ってんだというか寂しくねぇし拗ねてもねぇという思いを込めてキッと睨めば、愉しそうに跡部さんの目が弧を描く。
それが気に入らなくて更に睨みつければ、頭に乗ったままだった跡部さんの大きな手がするりと俺の頬を滑り、ぐっと顔を近づけられた。


「そんな眼で見られると…イジワルしたくなるなぁ?」


ニィッと嫌な笑みを浮かべてそう言った跡部さんに思わず頭突きをかまして、俺は部室から飛び出した。
そんな俺に向かって、くつくつと喉を鳴らして笑いながら跡部さんが言った言葉と、それを嬉しいだなんて思っている自分には、気づかなかったフリをして。





構ってほしい、なんて
(生徒会の仕事が片付いたらたっぷり可愛がってやるから安心しな)





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