青い空に白い雲。
清々しいほどの晴天の下、至極真面目な顔をした向日さんが、カレーパンをかじりながら「昼休みは戦争だ」と突然語り出した。
そんな向日さんの言葉に、天むすを食べていた宍戸さんも無言で大きく頷く。
同意を得られたからか、向日さんは先ほどよりも自信を持った様子で再び語り出した。
「昼休みは戦争なんだ!どれだけ速く教室を出られるか、いかに怒られずに廊下を早歩きで駆け抜けてスムーズに売店まで辿り着くか、目当ての品をしっかりと手に掴めるか…自分以外は全て敵へと変わるんだよ!」
カレーパンの袋を握り締めて熱弁する向日さんに、クリームパンを食べながら大きく頷く宍戸さん。
そんな二人を異物でも見るような目で見遣る跡部さんに、終始「宍戸さん可愛いです」と写真を撮りながら騒いでいる鳳…。
…俺はいったいどうしてこんな空間で昼食をとっているのだろうか…。
思わず遠い目になってしまったのは、仕方のないことだろう。
なんて、少しの間現実逃避をしていれば、いつの間にか眼鏡…じゃなくて、忍足さんまでもが昼休み戦争談義に加わっていた。
「限定品を狙うとるときなんか、何度生死の境をさ迷ったことか…」
「わかるぜ侑士!限定品はマジで生きるか死ぬかの戦いだよな!あと、プリンも!」
「あぁ、プリンは毎日デッドオアアライブやんな…」
熱く語り合う向日さんと忍足さんに、発言は一切しないが何かしらを食べながら何度も頷き続ける宍戸さん。
この会話を徹底的に気にしなければいいのかもしれないが、さすがに真横かつ大声でされれば嫌でも耳に入ってくるし気にしないなんて無理だ。
かと言って熱弁している向日さんの邪魔をすると後が大変めんどくさいので、遮ることはしたくない。
じゃあ早く食べて教室に戻ればいいのではないかと思うかもしれないが、それもできない。
なぜならここを出るには、出入口のすぐ側に座っている昼休み戦争談義の輪の中にいる宍戸さんの側を通らなければならず、絶賛宍戸さん撮影中の鳳の邪魔になる。
鳳も向日さん並みにめんどくさいやつなので近寄りたくない。
よって、俺はただ昼休み終了のチャイムが鳴るのを、この苦行に耐えながら待つしかないのだ。
「…帰りたい…」
自分の境遇があまりにも哀れで思わず口から溢れた言葉を、昼休み戦争談義組を異物のように扱っていた跡部さんが拾ったらしく、ズリズリと近づいてきて話しかけられた。
「おい日吉」
「…なんですか」
「俺様を神として崇め奉れば助けてやらねぇこともない」
キリッと「どうだ名案だろう」とでもいうような顔をして言った跡部さんを、よほど昼休み戦争談義組にストレスが溜まっていたのか、八つ当たりに近い感情で思いっきりぶん殴ってやろうと拳を固めた瞬間、パチッと目が覚めた。
「………夢か」
目の前には青い空も白い雲も、もちろん昼休み戦争談義組も存在せず、あったのは見慣れている自室の天井だけ。
…こんなにも自室の天井に安心感を覚える日がくるなんて思わなかった。
正直あんなにイラつく夢を見たあとで原因となった人たちの顔なんて見たくないが、部活に行かないわけにはいかない。
一つ大きくため息を吐いて、ゆっくりと布団から抜け出した。
日吉若の憂鬱な朝
(正夢にならないように)
(今日の昼休みはなにがなんでも)
(一人で過ごそう)