「…というわけで、今日貰ったチョコ全部渡してください」

「………は?」


昼休み、俺たちレギュラーはやつれ気味で屋上に集合した。
理由はまぁ…察してくれ。

そして、いつもよりため息二割増しの状態で会話しつつご飯を食べる。
どことなく空気がどんよりして感じる。

そんな中、隣に座っていた長太郎が唐突ににっこりと笑顔を浮かべて両手を差し出し、冒頭の台詞を言ってきた。

何がというわけで、なのか全くわからないし、長太郎にチョコを渡す意味もわからない。
何がやりたいんだコイツ…と呆れた顔で長太郎に目をやれば、更に笑みが深まった。


「宍戸さん、チョコ」

「いや、何でお前にチョコ渡さなきゃなんねぇんだよ」

「そんなの決まってるじゃないですか!どこの馬の骨とも知れぬ雌ぶ…じゃなくて、女のチョコなんて持ってたら宍戸さんが汚れちゃうからですよ!」

「お前今雌豚って言おうとしただろ!?」


ふいに聞こえた宍戸ナイスツッコミやでーという言葉は右から左へ受け流して、キリッと真顔になった長太郎を一発殴る。


「痛いです宍戸さん〜」

「お前がくだんねぇこと言うからだ!」


だってとかでもとかブツブツ言ってる長太郎は一旦放置して、終始外野に徹している奴らに目をやる。
ニヤニヤと愉快そうな表情を浮かべてこっちを見ているオカッパと丸眼鏡が非常に腹立たしい。

一言文句を言ってやろうと口を開いたとき、黙々と自分の弁当を食べていた日吉が呟いた。


「…そういえば、去年跡部さんが貰ったチョコの中に媚薬入りのがありましたよね」


ぼそっと呟かれたその一言に、ブツブツ言ってた長太郎がピタリと言葉を止め、がしっと俺の肩を掴んだ。

…正直、なんか長太郎から漂ってくる空気が恐い。
恐すぎて長太郎の顔を見たくない。
かといって見ないのも逆に恐い。

なんてことをぐるぐると考えていたら、長太郎が肩を掴む手に力を入れて俺を呼んだ。
それに恐る恐る長太郎へ目を向ければ、にっこりと微笑まれた。


「宍戸さん」

「…なん、だよ」

「チョコ」

「だから、渡す理由がっ…」

「チ ョ コ」


…目が確実に笑っていない真っ黒な笑顔を浮かべられて、承諾しないやつなんているのだろうか。いや、いない。

普段なら絶対に浮かばない反語が浮かぶぐらい恐怖を感じ、屋上に来るまでに渡されたチョコを長太郎に差し出した。

これだけですか、と変わらず真っ黒な笑顔で問われたから、下駄箱に入っていたやつとか机に入っていたやつは教室に置いてあるということもしっかりと伝えてしまった。


「そっちは放課後受け取りますね」


にこにこと笑顔を浮かべたままの長太郎に小さく頷き、チョコをくれたやつに心の中で謝罪しておいた。





ごめんねチョコレート
(恐怖には勝てなかったんだ…)



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