むかしむかし、とある村に"赤ずきん"と呼ばれる、いつも赤い頭巾を被っている女の子がいました。
赤ずきんはお母さんとふたりで住んでいましたが、毎日お母さんのことを手伝い、ふたりは仲良く暮らしていました。
ある日、赤ずきんは隣村に住んでいるおばあちゃんのお見舞いに行くよう、お母さんに頼まれました。
「赤ずきん、おばあちゃんが風邪を引いたらしいんだ。ちょっとおばあちゃんの所までお見舞いに行ってきてくれるかい?」
「えー…面倒くさいんスけど…」
「え?ごめん、聞こえなかった…なんだって?」
「喜んで行かせてもらうッス!」
「そう。良かった」
にっこりと黒…満面の笑みを浮かべるお母さんと、冷や汗をだらだら流しながら引きつった笑みを浮かべる赤ずきん。
ふたりの間に一瞬沈黙が訪れますが、赤ずきんが直ぐにお母さんに敬礼をして玄関へと向かいました。
…どうやらお母さんの満面の笑みに耐えられなかったようです。
「…あ、ちょっと待って赤ずきん」
「な、なんすか?」
「お見舞い品なんだけど、おばあちゃんの為に出すようなお金は無いんだよね。だから、道端で花でも摘んでから逝って…じゃなくて行ってくれる?」
「…わかったッス」
ふふっ、とにこやかに笑うお母さんに赤ずきんは終始引きつっていましたが、なんとかお母さんの黒い…満面の笑みを回避して家の外へと出ました。
家の外はいつもと特に変わらないはずなのに、何故か清々しく感じた赤ずきん。
少しの間青空を眩しそうに眺めてから、赤ずきんは大きく深呼吸をし、おばあちゃん家のある隣村へと歩き出しました。
「あー…母さんマジ恐かった。笑顔だけで逝くかと思った」
しばらく歩いたところで、どこかげっそりした顔で赤ずきんはぼそりと独り言を溢します。
よっぽどお母さんの黒い笑みが恐かったようです。
「ふーん、お前さんのお母さんはそんなに恐いんか?」
「世界一…いや、宇宙一って言ってもいいぐらい恐いに決まって…って、誰?」
独り言を溢していたはずなのに、それに返事が返ってきたうえに質問まで飛んできたことに驚いて、赤ずきんは周りを見回します。
そんな赤ずきんの様子に、くつくつと笑いを溢しつつ、草むらから一人の少年が出てきました。
出てきた少年は銀色の髪の上に茶色い三角の耳、耳と同じ茶色をしたふさふさの尻尾を持った、狼でした。
赤ずきんは現れた狼を目を丸くして見つめます。
狼はそんな赤ずきんの様子にまたくつくつと笑いを溢しました。
「なんじゃ、吃驚したか?」
「…それ…超似合うッスね…」
未だに目を丸くしたままの赤ずきんは、狼に向かってそう言いました。
言われた狼は一瞬きょとんとしたものの、すぐににんまりと色気のある笑みを浮かべて赤ずきんを見つめます。
「…惚れたか?」
「…あ、俺おばあちゃんのお見舞いに行かなきゃいけないんで失礼しますねー」
色気のある狼の笑みに、本能的に危険を察知した赤ずきんは、あはははと乾いた笑いを溢してその場から走り去りました。
1人残された狼は、そんな赤ずきんの後ろ姿を楽しそうに眺めていました。
「くくっ…おもしろい奴じゃったな…(玩具に)欲しいのぅ…」