赤也1年生設定








素直に綺麗だと思った。
見た目だけじゃなくて、一つ一つの仕草や言葉、雰囲気が。
あの人を形作る全てのものが、綺麗だと思った。


「赤也?お前こんなとこでなにしてんの?ここもう試合終わってるだろぃ?」

「……」

「おーい赤也ー!無視すんなー!」

「…痛っ!何するんすか!」

「ボーッとしてるお前が悪いの」


頭にバシン!と痛みが走って、何事だと後ろを振り返れば、どこから持ってきたのか…てか何で持ってるのかわからないプラスチック性の黄色いメガホンを持った丸井先輩がいた。

俺の頭を叩いたのはそのメガホンすか。何気にそれ痛かったんですけど。
なんて気持ちを込めて丸井先輩を睨んでも全く無視。
ついため息が洩れた。


「で?」

「は?」

「だから、こんなとこでなにしてんの?」


ここ、さっきまで氷帝が試合してたコートだろぃ?そう言って首を傾げた丸井先輩。
俺が他校の試合を見てたなんて想像も出来ないんだろう。
しかも、俺があんまり好きじゃない氷帝の試合を見てた、なんて。


「お前、氷帝好きじゃねぇって言ってなかったか?」

「あー…いや、なんかたまたま通りかかって…」

「ふーん。ま、いいや。それよりさ、仁王と試合終わったらゲーセン行こうって話してたんだけど来るか?」

「行くっす」

「ん。んじゃ、試合の前には戻ってこいよ」


それだけ言った丸井先輩は、ひらひらと手を振って去っていった。

立海の試合が始まるまであと1時間。どうせ応援しか出来ないんだからギリギリに戻ればいいと考えて、誰もいないコートに視線を戻した。
…もう少しだけ、あの人の余韻に浸っていたかったから。


「…あれ?」


氷帝の試合は終わった。
もちろん、聞いたことないような名前の学校に立海程ではないにしても割りと強い氷帝が負けるわけなくて、圧勝していた。
でも今、誰もいなくなったコートの中に1人佇んでいる人がいる。


「…あの人だ…」


ふわり、風に揺れる色素の薄い柔らかそうな髪。
すらりと伸びたモデルみたいな手足。
間違いなく、俺がさっき綺麗だと思ったあの人だ。
それに気づいて、少し嬉しくなったのと同時に、なんでここに居るのかが気になった。

試合は圧勝だったし、別に悔いることもないはず。(俺があの人の試合を見たのは試合終了間際だったからよくわからないけど)
なら、何故?


「…何してるんだろ…」


じっと見てみても、こっちに背を向けてて表情は見えない。
向けられた背中からわかるのは、あの人が何かを悔やんで悲しんでいること。

何かしてあげたいと思ったけど、俺なんかに何ができるのかわからずただ立ち尽くしてあの人を見ていた。
それからすぐ、あの人の元に1人の男がやって来た。
長い濃紺の髪に、ダサいけどやけに似合う丸眼鏡をかけた男が。

丸眼鏡をかけた男は、あの人の傍に歩み寄り、あの人をぎゅっと抱き締めた。
あの人も男の背中にゆっくりと腕を回した。
それで理解した。
あの人はあの男と付き合っているのだと。
あの男ならあの人の悲しみを拭えるのだと。


「……」


何か言葉を交わしているらしいあの人たちを見てて、チクッと胸が痛んだ。
ぎゅっとユニフォームの胸元を握りしめて、あの人たちから目を離した。


「…戻ろう…」


誰に言うでもなくそう呟いて、立海のコートへと帰った。
ちらり、去り際にコートへと目を遣ったけれど、そこにはもう誰もいなかった。





見つめた背中と痛んだ胸
(気になった理由も、)
(胸が痛んだ理由も、)
(理解できない程俺は子供じゃなくて)
(確かに俺は、)
(あの人に恋をしていた)




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -