変化は一瞬、しかし“そういったこと”に慣れている二人は直ぐに異変に気付いた。

「あー……うーん……どちらさんかな?」
「……気配は一体じゃないな」

 一見、なんの変化も見られないように見える。が、そばにある地区掲示板に目を向けてみると文字が全て反転しているのがわかる。それを理解してよくよく辺りを観察してみれば、全てが鏡写しのようになっていた。何より決定的に違うのは、上空に巨大な光の亀裂が走り、辺りを美しい光で照らしているのだ。神々しいようで、寒々しくもあり、何処か不気味な美しい光。翠と茂庭の二人は、“霊力結界”の中へと引き込まれてしまったのだ。

「くそぅ……私のたこ焼きタイムを……」
「一回そこから離れろよ……ほら、お出ましだぞ」

 苛立ちを隠しきれない翠が口の中で転がしていたマスカット味の飴玉をガリッと歯で噛み砕いた。そんな翠を茂庭が宥める。そして、二人にじりじりと近付く無数の禍々しい気配。

グチャ……グチャリ……

 それらが動くたびに聞こえる不快な音。その音はゆっくりと二人に向かって近付いてくる。やがて、上空からの美しい光に照らされたその音の正体がはっきりと目に映った。
 爪先から頭までの肉が全て腐り、歩くたびに剥がれ落ちた皮膚が地面に落ちる。剥がれ落ちた皮膚の裏にはウゴウゴと無数の蛆が這っていた。しかし、腐った肉が剥がれるたびに全身に纏う瘴気によってそれらが再生されていく。新たな肉となって再生されたそれは直ぐにまた腐り始め、纏う瘴気の色を強くしていった。

「ア゛ァ……カ、ラダ……ニ、グ……」

 人の体をしているがその全身を腐らせ、その腐った体を補うために新たな血肉を探して彷徨う不死のモノノケ。

「こいつら屍人か……」
「バイオハザードだぁ……暫くお肉食べられないな……」

 翠は眉を顰めながら左手を前方に翳す。翳した掌をグッと握ると手首から先が一瞬消え、しかし直ぐに元に戻った。左手には一振りの刀が握られている。茂庭の手にも、いつの間にか一冊の分厚い本があった。
 ザリ……と地面を踏みしめる。屍人たちは明らかな敵意を持ってじわりじわりと二人に近付き、距離を縮めていく。
 ザリ……また一歩、翠が後ろに下がる。それを合図に屍人たちは窪んだ目に怪しい光を宿らせて耳を劈くような雄叫びをあげた。

「オ゛ォオ゛オ゛オ゛オ゛ォォォ!!!!!」

 血肉を求める“モノノケ”と……神殺しの異能力を持つ“カミガカリ”。
“超常存在”同士の戦いが今、始まる。