「スーパーで見つけてね。陽和がいつも鶯丸さんの話をするから、つい買っちゃった」



 そう言って母親が少女に差し出したのは抹茶色をした丸いお餅。今日のおやつはこのお餅らしい。鮮やかな緑色は鶯丸のふわりとした髪色を連想させる。鶯丸の色だ、と少女は一瞬にして嬉しそうに笑った。
 お餅を二つ乗せた皿とそれぞれジュースとお茶が入ったコップをトレイに乗せて部屋に戻る。扉の前に来て、両手が塞がっていることに気付いたが、少女の気配を感じ取った鶯丸が扉を開けてくれた。
 トレイをローテーブルに置く間、鶯丸が座布団を引っ張り出して並べてくれる。皿とコップを一つずつ分けて置いて、さぁ頂きます……の前に。

「いつもありがとぉ。もらってくださいっ」
「あぁ、頂戴しよう」
「えへへ〜」

 もう何度目かわからないやり取りだが、鶯丸が了承する度に少女は嬉しそうに笑う。

「これね、わたしがいつも鶯丸のおはなしするから、買ってきたんだって!」
「……あぁ、なるほど。うぐいす餅か」

 少女は、色が鶯丸を連想するものだからと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。鶯の名が入っていることに気付いて、目を見開いた。確かに鶯丸を目視出来るのは少女だけで、いくら口頭でどんな姿か教えても本物を知る事は出来ない。

「このお餅、うぐいすっていうの?」

 鶯丸と同じ名前をしているというだけで更に嬉しくなる。終始ニコニコと笑顔を浮かべながら食べる少女を、鶯丸は横目で眺めて口元を緩めた。

「名前もいっしょ、色もいっしょね!」
「この色は好きか?」
「うん!――ちゃんとか、――ちゃんはね、ももいろが好きって言ってたけどね、――は鶯丸の色がいちばん好き!」

 少女の言葉に、そういえばと室内に目を配せた。子供らしい色彩賑やかな部屋だが、何処となく緑色が多いような気がする。

「そうか。それは嬉しいことを聞いたな」
「――もうれしい!」

 笑顔が絶えない少女の周りは、とても暖かい。彼女が纏う強大な霊力も相俟って、この上ない安心感を鶯丸に与えてくれる。最初は、あまりの強大さに恐れすら感じた。しかし、少女の方から先に鶯丸を受け入れてくれた。そのおかげか、じわりじわりと受け止めた霊力が鶯丸の身に馴染んでいく。それは逆も然り。

 この暖かさがこの先も続けばいいと思っていた。





悪い出来事程、予期出来ぬものだ。いや、悪い出来事という言葉だけでは片付けられない。
これは、“悲劇”だ。





「本日16時頃、山道沿いの道路にて土砂崩れが発生。通りがかった車一台が巻き込まれ、乗っていた男女二人が死亡。男女の子供と思われる少女は救助隊により病院に搬送されましたが、意識不明の状態です」










なにか、とてもこわいことがあったきがする
まわりは、まっしろ。どこまでも、まっしろ
せまいのか、ひろいのかもわからない



――『しっかりしろ』



こえ。こえ?だれかのこえがする。でもどこにいるかわからない
どこまでもまっしろで、さきがわからないせかいはとてもこわかったけれど、このこえはとてもあんしんする
でも、だれのこえだろう?



――『大丈夫だ』



……うん。――がいうなら、だいじょうぶなきがする
ねぇ、どこにいるの?ちかくにいる?



――『俺はいつも、お前の近くにいる』



いまも?みえないよ、こわいよ



――『大丈夫だ、俺の名を呼べ』



……なまえ?なまえ……
わかんないよ……あなたはだぁれ?



――『強く望め。そこから出たいと、望め』



でたい、でたい……うん、でたい
なにもないけど、ここはなんだかこわい
でたいよ



――『そうだ、呼べ』



でたい、でたい、でたい、でたい、でたい
ここはこわい、でたい
おそとにいきたい
ここはしろくて、こわくて、さみしい
でたい、あいたい、あいたい、あいたい、あいたい
――にあいたいよ
こわい、でたい、あいたい――――





「――鶯丸、たすけて……」



――『当然だ』





まっしろないろが、きえた
かわりにみえたのは、だいすきないろ



「迎えに来た。帰ろうか」

のばされるおおきなて
なんのためらいもなくそのてをにぎると、あたまがふわふわとしてくる
でもイヤなかんじはしなかった
もうだいじょうぶなのだと、わかったから







 少女が目を覚ましたのは、事故から三日経った後だった。
 両親の葬儀は慎ましやかに行われたが、同時に少女に身寄りがない事が判明した。父方の両親は既に他界、母親の両親も施設暮らしとなっていた。事故後、滅多に口を開かない少女に詳しく話を聞くことも出来ず、結局保護施設へと預けられることになったのだ。
 未だに現実が受け入れられず、更に恐怖心も拭えていない少女は、笑わなかった。両親を亡くした心の傷のせいだと思った職員たちは、懸命に少女の心のケアを行った。同じように施設に預けられていた子供たちも、少女に構った。結果、少女は少しずつ話すことが増え、笑顔も見せてくれるようになった。元々、明るく好奇心旺盛な性格だったのだ。
 しかし、少女の心が癒されていくにつれ、何人かの者が少女を気味悪がるようになった。曰く、“見えないモノの話をする”と。少女にとっては見えないものではない。鶯丸のことについて話すのは、施設の者たちを信頼してのことだったし、何より信じてもらえると思ったからだ。疑われるなど、思ってもみなかった。故に、少女は心を取り戻すにつれ、孤立していった。

「なんで、なんで……」

 人通りの少ない廊下の突きあたり、日が遮られたその場所で少女は膝を抱えて座っていた。少女の頭の中に浮かぶのは先程同い年の男の子に言われた言葉。うそつき、と、言っていた。少女には意味がわからなかった。自分は嘘など言っていないのに。鶯丸が自分にしか見えないのだということは、わかっていた。でも、傍にいるのだと教えれば、信じてもらえると思っていた。

「陽和、うそつきじゃないもん……」

 うぐいすまる、と、心の中で名前を呼んでみた。

「どうした?」

 すると、音もなく現れた。ほら、鶯丸はいる。わたしの目の前にいる。わたしにしか見えないけど、確かにいる。それなのに、なんで。
 解けない疑問を抱えたまま、目の前にいる鶯丸をじっと見つめた。瞬きを一つ、二つ。それでも、確かに鶯丸はいた。

「今日はとても天気が良い。外で遊んできたらどうだ?」
「……うん」

 鶯丸の言葉に小さく頷き、少女は外へ向かった。その背を見送りながら、鶯丸は小さく息を吐く。

「……人の子とは、難儀なものだな」







「……ねぇ、いっしょにあそんでもいい?」

 砂場で遊んでいた数人の女の子に恐る恐る声をかける。声をかけられた女の子たちは、少女を見てお互いの顔を見合わせた。

「変なこと言わないならいいよ」
「……いわない」

 女の子たちの言う“変なこと”とは鶯丸のことである。少女はそれを変なことだとは思わないし、以前ならば反論していたところだが、度重なる衝突により少しずつ学んできた。誰もが鶯丸のことを信じてくれるわけではないのだと。
 子供達から少女への態度には2パターンあった。一つはこの女の子たちのように、少女が鶯丸の話さえしなければ受け入れてくれる傍観タイプ。そして、もう一つは。

「あ、うそつきだ!」
「っ!」

 聞こえた声に、少女は怖々と顔を上げる。視線の先には、笑いながら少女を指差す男の子。更にその後ろにも2,3人姿が見える。男の子達は足早に駆け寄ってくると、少女が作っていた砂の山を蹴飛ばして崩した。

「あっ……!」
「あー!――くん、ひどいよ!」
「――ちゃんがつくってたのに!」

 突然の男の子の暴挙に、女の子達が非難の声を上げる。当の本人である少女はただ驚いて何も言えなかった。

「うそつきがこんなとこにいるから悪い!」
「うそつきー!」

 言葉の暴力が少女に突き刺さる。男の子達も悪気がない分容赦もなく、更にタチが悪かった。崩された砂山の前に猛然と座り込みながら男の子を見上げていると、ドンッと突き飛ばされて砂の上に背中から転がる。女の子たちの「あっ!」という驚いた声が重なった。

「おまえみたいなの、変人っていうんだぞ!」
「こいつといっしょにいるのも、へんじーん!」
「っ……」

 今までは少女だけへの非難だった。しかし、受け入れてくれた子たちをも対象に入れた言葉に、少女は身を固くした。今まで少女を庇うように男の子達に口を出していた女の子たちも思わず口を噤んでしまう。

「おまえが話す“うぐいすまる”もうそつきなんだろ?」
「ほんとにいるわけないじゃん!」
「じゃあどっちも変人でいいじゃん!」
「変人!」

 次の瞬間、少女は俯いていた顔を上げ、自分を突き飛ばした男に思い切り体当たりをして突き飛ばした。突然の反撃に男の子は呆気なく地面に倒れる。

「鶯丸をばかにするな!!」
「いってー……なにすんだよ!」
「あっ…!」

 しかし幼いながらも男女の差はあるもので、再び地面に突き飛ばされる。それでも少女はめげず男の子に向かっていった。始まった取っ組み合いに驚いた女の子たちは慌ててその場から離れ、大人を呼びに建物の中に走っていった。

「鶯丸はうそつきじゃないもん!なにもしらないくせに!」
「しるわけないじゃん!いないやつのことなんて!」
「鶯丸はいるもん!!」
「わっ!」

 砂場に足をとられ、更には少女に力一杯突き飛ばされた男の子が先程よりも盛大に転んだ。その弾みで膝を打ち付けて血が滲んでいた。

「あ……」

 大きなものではないものの、自分が相手に怪我を負わせてしまったという事実に少女の頭が冷静になる。それに反して、男の子達の態度は過激なものになった。

「こいつ!」

 少女たちを囲んでいた一人が足元にあった石を掴む。それに倣って他の子も石を拾い上げると、一斉に少女に向かって放り投げた。動揺で放心していた少女は避ける術もなく、ただ突っ立っているしか出来なかった。

 “あたる…!!”

 少女は石が当たるのを覚悟でぎゅっと目を閉じた。しかし。



バラバラ、バラ



 少女に向けられた石は対象に当たることなく寸前で止まり、バラバラと地面に弾かれた。何の衝撃もないことと、男の子達の動揺の声に恐る恐る少女は目を開ける。と、目の前には黒と大好きな緑がある大きな背中。

「あ……」



「……きもちわるい!!」
「なんだよ今の!」
「やっぱこいつ、変だ!」

 あっという間に顔色を変えた男の子達は少女を残して立ち去っていった。少女は言い返す勇気も追いかける気力もなかった。

「……大丈夫か?」
「うぐいすまる……」

 背中を向けていた鶯丸が少女へと向き直り、視線を合わせるように屈んだ。近くなったおかげで、鶯丸の気遣うような優しい目がよく見える。その視線を受けて、少女の瞳からぽろりと涙が零れた。

「うっ……ううぇ〜っ……!」

 耐え切れず、少女は声を上げて泣き出した。次から次へと溢れてる涙は、拭っても拭っても止まらない。見兼ねた鶯丸が少女を抱き上げ、人気のない場所へと歩いて行った。その姿を確認出来た者は居ない。





 すすり泣きが静かに溢れる一室。泣き腫らした少女の目は真っ赤になってしまっていた。そんな少女の姿を見て、鶯丸は思案顔を浮かべ、ゆっくりと口を開いた。

―自分は他人が己のことをなんと言おうと気にしない。ましてや人の幼子の言う事など間には受けない。だがお前は別だ。自分のことを話すが故に、怪我でも負ってしまったら自分は常世にいる両親に顔向けが出来ない。心配しなくても、自分はいつもお前の傍にいる。離れないと約束しよう。俺の印もある。お前が何処にいても見つけてやろう。だから――

「俺はいないものとして過ごせ。お前の為」

 鶯丸が言い切る前に、少女は勢いよく鶯丸に抱きついた。そして、いつしかのようにイヤイヤと首を振る。

「やだよっ、やだっ……みえるのが、――だけでも、いるもんっ。鶯丸はいるもん!おはなしもするし、いっしょにおやつもたべてるもん!こうやってギュッてできるもん……それにっ」



「パパと、ママがしんじてくれたのにっ、――がいないって、いいたくない!ウソでも、やだ!」

 鶯丸は、じわりと何かが温かくなるのを感じた。同時に、少女が酷く追い詰められていることも理解した。少女を守ってあげられる存在が、自分だけだということも。
 少女が虐げられるようになってから考えていたことがあった。それは、最終手段として。出来れば、使うことがなければ良いとすら思っていた。だが、少女の悲痛な訴えを受けた今、そうも言っていられない。自分が表立って、少女を守れる存在にならなければならない。
 鶯丸は、決意した。







「我々は時の政府の遣いで参りました。こちらに居ります――という子供に審神者の適正がある事が判明致しました。これよりは政府側にて子供を保護致します」

 施設に訪問してきた人物に、職員たちは動揺が隠せないでいた。
 一般の人でも、時の政府の存在は知られていた。審神者、付喪神、歴史修正を図る遡行軍の存在も。だからこその動揺であった。今更来るのか?と。
 今更というのは。審神者適正者は、それが判明した時点で護衛、または保護対象になる。遡行軍から守る為だ。一般家庭出身の者ならば、自宅で護衛を伴いながら政府による訓練で身を守る術を学ぶ。代々審神者が生まれる家系ならば言わずもがな。審神者適正者を守る為の保護制度はいくつかある。そして、少女の場合。身寄りがない未成年者は真っ先に政府の保護施設に引き取られる。厳重に警備された施設にて、付喪神を具現化する霊力がコントロール出来るようになるまで保護されるのだ。
 故に、職員たちは戸惑っていた。少女を施設で引き取ってから既に数ヶ月は経過していたからだ。本当ならば、直ぐに政府に保護されるはずである。しかも役人の発言には引っ掛かりがあった。

 まるで、少女の適性を、今まで知らなかったような口ぶりだったからだ。







 施設内の一室で、少女と役人は向かい合っていた。当然、少女の傍には鶯丸の存在。
 突然、自分と話したいと現れた大人たちを見て、少女は戸惑っていた。しかも、話していることは訳がわからないが、掻い摘んで自分には他とは違う力があるのだという事だけはわかった。だからこそ、自分にしか鶯丸と見ることが出来ないのかと、頭の端で考える。しかし、目の前で教えてくれる大人たちにも鶯丸の姿は見えないようである。話したところで信じてもらえるかわからない。少女からは不安の色が消えなかった。自然と、助けを乞うように鶯丸を仰ぎ見る。その視線の意味を理解した鶯丸は、少女を安心させるように微笑んだあと、大丈夫だと言うように頷いた。それに勇気を貰った少女は膝の上でぎゅっと掌を握り込む。

「ねぇ……」
「ん?何か聞きたいことでもあるのかな?」
「あの、えと……」



「おにーさんたちは、――にしかみえないひとがいるって、しんじてくれる……?」

 不安そうに此方を窺う少女に一瞬ぽかんとしたあと、心得たように表情を戻した役人は、一様に頷いた。

「信じるよ。審神者にはそのような力を持った方はたくさん居るからね」
「どんな人が見えるのかな?」

 引き取られてからは初めての反応に、少女は俯いていた顔をそろそろと上げていく。希望にとくん、と胸が躍るのがわかった。そして、少女の応えに役人は目を見開く。

「鶯丸って、いうの……」
「鶯丸……?!」
「う、うん……」

 身を乗り出して食いついてきた役人に、少女はびくりと身を引いた。

「鶯丸、って……古備前の?付喪神である刀剣男士?」

 役人の言っている意味がわからず、少女は首を傾げる。ちらりと視線を向けた先で、鶯丸が頷いたのがわかった。

「……うん、そうだって」
「なんてことだ……!」
「こんなことがあり得るのか……」

 ざわざわと動揺が走る役人一同。

「刀はっ……刀は持っているかな?もしかしたら、既に顕現出来るかもしれない!」
「かたな?かたな……鶯丸が、いつもぶらさげてるやつ?」
「あぁ!持っているかい?」

 鶯丸を見上げると、彼は腰に刷いていた太刀を外し、少女に差し出した。どういうものかわからないが、常に身につけていたものだ、鶯丸にとってとても大事なものなのだろうということは理解していた。それを、どうすればいいのだろう?

「持てばいい。だが、お前には重いだろうからな。机に手を差し出せ、置いてやろう」

 言われた通り、少女は掌を上向きに両手を机に差し出した。そこに、鶯丸がそっと太刀を乗せる。その瞬間、少女が触れた場所からじわりと霊気が伝わり形となっていく。役人側からしてみれば、何もない場所から浮き出るように現れた刀剣に驚きを隠せなかった。彼らが言っていたのは、少女自身が所持していないかという意味だったのだ。

「これは、凄い……こんな光景、初めて見た……」
「刀剣すら顕現されていない状態で、刀剣男士が目に見えていたのか……」
「……どうすればいいの?」
「あ、あぁ、そうだったね……いやいや、このような事態は初めてでね、驚いてしまったよ」
「霊力を集中させて、刀に眠っている力を喚び起こす感覚なんだけど……」
「れーりょく……」

 少女はさっぱり理解が出来なかった。役人たちも、これ程までに幼い子が既に顕現出来るかもしれない事態など初めてであり、説明に戸惑っている。政府で保護している未成年者は一様に、審神者の何たるかを学んで理解した上、霊力のコントロールが出来るようになるからだ。
 さて、どう説明したものかと役人が頭を悩ませていると、鶯丸が口を開いた。

「強く願えばいい、手を貸せと。そうだな……助けて欲しいと強く思うんだ」
あの時のように。

「つよく……きて、って?」
「あぁ」

 誰もいない場所へと言葉を投げかける少女を、役人は静かに見つめていた。自分たちには見えないが、恐らくそこに鶯丸がいるのだろう。そしてどうやら顕現する手助けをしてくれているらしい。突然きた自分たちよりも、長らく傍にいる鶯丸の言葉の方が、少女は受け入れやすいだろう。

 少女は、目の前にある刀をじっと見つめた。自分で持ち上げているわけではないが、机と挟まれている手はずっしりとした重さを感じている。
 強く、願う。強く、思う。そうすれば、鶯丸ともっと一緒にいられる?皆が、鶯丸の存在を信じてくれる?鶯丸を悪く言われることはなくなる?
 延々と鶯丸の事を思っていると、じわりと得体の知れない何かが自分から溢れるような感覚がした。理解し難い感覚に恐れ、意識が逸れそうになる。しかし、寸前のところで我慢をした。この感覚から逃げちゃいけないのだと、思った。それは、鶯丸を思う一心のお陰で思い止まった。
 じわりじわりと溢れる何かは掌に集中していく。まるで吸い込まれていくように。更には掌から、その上にある刀へと流れていくのがわかる。少女の膨大な霊力を受け、少女の強い思いを受け、やがてそれは形となった。



「古備前の鶯丸。名前については自分でもよくわからんが、まぁよろしく頼む」