いつも通り、いつもの時間に少女は目を覚ます。が、ひんやりとした空気を感じ取ってぶるりと身震いし、もぞもぞと布団の中へと潜っていった。本丸の特殊な作りのおかげか、凍えるほどの寒さは感じなかったが、扉を開け閉めすれば流石に冷たい空気が入り込んでしまう。この時間、少女の寝室を出入りするのは一人しかいない。少女は寝起きのせいか未だぼんやりしながら布団の中で丸まっていると、パチパチと小さな音が聞こえた。何の音だろうと気になって布団を被ったまま頭だけを覗かせると音がした方向に平野の背中が見えた。

「ひらの……?」
「あぁ、お目覚めですか小梅様」

 少女の声に振り向いた平野がにこりと笑う。舌っ足らずな声でおはようと言えば、平野もそれに答えた。そうして少女の方へ向くようにして体を退けると、そこには見慣れないものがあった。

「冬の景趣となりましたので、火鉢をご用意致しました。こちらへどうぞ、暖かいですよ」
「ひばち……」

 少女は火鉢なるものがよくわからなかったが、暖かいと聞いてのそのそと布団から這い出てきた。そのまま這い這いで火鉢に近付いて平野の隣にちょこんと座る。火鉢を見てみると、灰の中心に炭が重なり、煌々と炎を纏わせて暖かな熱を放っていた。

「あったかい……」
「ふふ、そうですね」

 肌にじんわりと感じる暖かさに、少女はふにゃりと笑った。

「温まってきたらお召替えを致しましょうね」
「うん」

 着替えたあとも、少女は火鉢の前に座り込んでじっと暖を取っていた。特別寒いわけではないが、ゆっくりと時間をかけて炭が灰に変わる様を見ているのが楽しいらしい。しかし、いつまでも部屋に篭っているわけにはいかない。

「小梅様、そろそろ朝餉の時間ですよ」
「ん……」

 歯切れの悪い返事を聞きながら灰を被せて火を消した。そこで漸く腰をあげた少女に待ったをかけて、羽織を一枚追加で着せた。

「? おようふく、まだきるの?」
「室内はそうでもないですが、廊下に出ると寒いんですよ。辺り一面、雪に覆われてしまっていますから」
「! ゆき!ふってる?」
「今は止んでおりますが、十分なほどに積もっておりますよ」

 雪、と聞いて少女の目が輝いた。前日に初雪が降り、鶴丸と一期と散々駆け回って遊んだわけだがその楽しみはまだ尽きていない。寝起きに感じた寒さなど一瞬で忘れてしまった。急いで扉に駆け寄ると、勢いよく開かれた戸がスパン!と小気味好い音を立てた。戸を開けた瞬間にひんやりとした空気が肌を刺したが、そんなものは一切気にならなかった。辺り一面見渡す限りの銀世界。一晩の間で積もった雪に陽の光が反射してきらきらと輝いていた。雪を見るのは初めてではない。それでも、全てを覆い尽くすような純白に心を躍らせずにはいられなかった。逸る気持ちのまま庭へと飛び出してしまいそうだった少女だったが、それよりも先に少女の行動を予測していた平野によって手を繋がれる。

「まずは朝餉ですよ、小梅様。さあ、平野と手を繋ぎましょう」
「じゃあねっ、たべたらねっ、あそんでいい?」
「もちろん、構いませんよ」
「やったぁ!」

 わくわくとした気持ちを抑えきれず、歩きながら繋がれた手をぶらぶらと揺らしている。広間へと向かっている途中も渡り廊下から見えるたくさんの雪の塊に何度も足を止めてしまった。
 いつもよりゆっくりと広間へ着くと、足音を聞きつけた鶴丸が中からひょいっと顔を出した。

「おはよう、お嬢。外を見たかい?すごくわくわくするな!」
「おはよう、鶴丸!小梅もはやくあそびたいっ」
「あぁ、食べ終わったら庭へ行こうな」
「うん!」

 はしゃぐ少女と鶴丸を宥めながら席に着いて、漸く食事にありつける一同。しかし雪にはしゃいでいるのは少女と鶴丸だけではないようで、昨日は外に出なかった面々も今では雪の話題に食いついていた。

「初めてじゃないけれど、こうして実際に自分の目で見るとやっぱりわくわくしてくるね」

 燭台切の言葉に皆一様にうんうんと頷いている。特別雪が珍しいわけではない。ただ、こうして身に沁みる寒さを肌に感じたり、吐き出した息が空気に白く溶けるさまを見たり、視界に入る全てを銀世界が覆う様を眺めたり、そういったことがただただ新鮮だったのだ。ただの刀であった時には出来なかったことだ。それらは全て実態がある今だからこそ感じることが出来るものだ。

「じゃあ、みんなであそぼ!」
「え、出陣はどうするの?」
「残念だけど、今日はお休みかな」
「雪掻きをしないといけませんからね」
「遊ぶついでに雪掻きだな!」
「逆では?」

 少女の言葉にその場は更に盛り上がる。小夜と燭台切は出陣が出来ないことに少し残念そうだったが、雪遊びの方にも興味はあるらしく、特に反対はしない。

「なら、しっかり防寒しないとだな」
「やったぁ!」

 最後に鶯丸の言葉で本日は雪遊びをすることが決定した。少女は早速隣に座る平野に雪うさぎを作るお誘いをしている。鶴丸も何やら小夜に耳打ちをしているので、一緒に何か作るのだろう。今日は一際賑やかになりそうだ。







 食事を終えた一同は早速雪遊びの準備中である。付喪神である彼らは寒さを感じはするものの、それによって身体に影響が及ぶことはない。よって一晩中雪の中で遊び惚けても凍えるだけで風邪も引かないし死にもしない。しかし生身の人間である少女はそうはいかず、対策として今も鶯丸によって手袋、上着、マフラー、耳あてと次々ともこもこに着込まれていく。動きづらい、と少女は少しむっすりとしているが鶯丸は何処吹く風である。

「少々動かしづらいが、あったかいな!」

 影響はないものの、いざという時に動けないと困るので刀剣たちも少女程ではないが寒さ対策に着込んでいく。鶴丸は嵌めた手袋を眺めながらグーパーと開いたり閉じたりを繰り返している。小夜はマフラーが気に入ったようで、首に巻いたマフラーをもふもふと触って感触を楽しんでいる。

「うー……ねぇ、やだー」
「やだと言われても聞けないな」
「そうだよ、また風邪引いちゃったらどうするの」
「ひかないからー!」
「小梅様、こればかりは辛抱してください」
「んぅぅ……やー!」

 以前、少女が寝込んでしまってからはこの三名は風邪に対して敏感になっている。おかげで対処の仕方は覚えたものの、ないに越したことはない。しかし少女は、せっかく遊ぶというのに動きづらい格好というのが気に入らないらしく、耳あてを外してぽいっと放り投げた。こら、と窘めながら燭台切がそれを拾い再度つけようとするが、少女はいやいやと首を振ってそれを阻止する。背後では既に仕度を終えた面々がどうしたものかと眺めている。しかしまぁ、駄々をこねてしまった少女を上手く宥められる人物はこの中では一人しかいない。

「子供は風の子とは言うが、外の寒さは厳しいぞ」
「だいじょうぶだもん……」
「小梅」

 鶯丸に名前を呼ばれると、怒られるのかと思った少女はぶすくれながらぷいっと視線を逸らす。困らせているのはわかっている。でも、一度面白くないと思ってしまうと感情が制御出来ないのだ。鶯丸はそんな少女の頬に手を伸ばしてするりと撫でた。その優しい手つきに、少女は逸した視線をバツが悪そうにゆっくりと戻していく。

「小梅がまた寝込んでしまったら、俺は悲しい」
「……かなしい?」
「食事も喉を通らなくなってしまうだろうなぁ」

 悲しそうに目を伏せた鶯丸に、少女は瞳を揺らして動揺した。大丈夫とは言ったけれど、もし本当に皆の言う通りに風邪を引いてしまったら……鶯丸が悲しむ?悲しいのは駄目。自分は鶯丸を喜ばせたいけれど、悲しくさせたくはない。ご飯を食べなくなってしまう?そんなのはもうやだ。せっかく一緒に食べられるようになったのだ。顕現する前のように、鶯丸だけ用意されない食事、一緒にいるのに誰も彼に気付かない。それだけはもう耐えられない。顕現して人の目に触れるようになった今でも、その時の事が堪えたのかお供えする癖は治っていない。皆で一緒に食べる食事の席ではしないが、もらったお菓子やおやつなどを鶯丸と分け合う時には相変わらず続けているのだ。

「……やだ」

 ぼそり、と小さく呟くと少女は燭台切の手から耳あてを受け取る。せめてもの最後の抵抗で耳あてを睨んだあと、かぽり、と自分で耳あてをつけた。それを見届けた鶯丸は満足そうににこりと笑う。

「よし、良い子だ」
「……うさぎさん、」
「あぁ、一緒に作ろう」

 少女はしゃがんでいる鶯丸の首に腕を回してぎゅっと抱き着いた。そのまましがみついて離れないので、少女の背後で控えている彼らに目配せをすると順に部屋を出て行った。しがみつく少女を抱き上げて彼らをゆっくりと追いかけながら背中をとんとんと軽く叩けば、しがみつく力が強くなった。

「縁側から眺めるのも良いが、開けっ放しでは移動する時に冷えるなぁ」
「……しめちゃう?」
「日が落ちる前にはな」

 でも、と言葉を続けながら鶯丸はその場にしゃがみこんだ。ちょうど歩いていたその縁側は閉められていて、銀世界を一望することは出来ない。

「こうやって外を眺めるのも綺麗だ」

 鶯丸の言葉に少女は伏していた顔を上げる。指さされた先には閉め切られた戸がある。が、ちょうどしゃがんだその目線にはガラスがあって、その部分から外を眺めることが出来た。限られた視界の中で見える白い世界。まるで景色が切り取られたように感じた。

「えほんみたい」
「画か、確かに。風情があっていい」

 少女が隠していた顔を上げたところでまた歩き出す。玄関には一期一振が待っていて、彼以外の姿は見えない。

「小梅殿の長靴を出しておきました。深いところもあるようですな」
「ありがとう。まずは道を確保してからだな」
「ですな。 ……小梅殿、失礼いたします」

 少女は鶯丸から離れる気はないようで、差し出された長靴をじっと見つめたままだ。察した一期が断りを入れて小さな足に長靴を履かせる。桃色地に白い水玉模様の長靴だ。玄関を出る一期に続いて外に出ると、ひやりとした空気が一際強くなった気がした。
外に出てきた少女に気付いた二つの小さな影がたたたっと走り寄ってきた。平野と小夜だ。その二振は少女に向かって両手を差し出して言った。

「これだけあれば、たくさんのうさぎさんが作れますよ」
「こっちは、耳。色んな大きさ、あるから」

 差し出された両手を見下ろすと、平野の手の中にはたくさんの小さな赤い実が。小夜は大小様々な大きさの細長い葉を持っていた。雪うさぎを作ると意気込んでいた少女の為に集めてきてくれたようだ。たくさん集められたそれらに少女が少しずつ目を輝かせていくと、今度は出てきた玄関の方から声をかけられる。

「あ、いたいた。乗せるお盆はこれで良いかい?一番大きなものを持ってきたよ」

 燭台切が持ってきたのは大きなステンレス製のトレイ。小さな雪うさぎが10匹程乗せられそうな大きさである。そこにたくさんの雪うさぎが集まる様を想像して、少女の頬が紅潮してきた。すると、その頬に突如冷たいものが当たって少女の体がびくりと跳ね上がる。

「ぴゃっ?!」
「あはは!驚いたかい?」

 一体なんだ、と声のした方へ振り返る。言わずもがな、その犯人は鶴丸だ。その手には丸く固められた小さな雪の塊。どうやら、それを頬に押し付けられたらしい。ぱちぱちと数回瞬きをしたあと、少女がへにゃりと表情を緩めて笑顔を浮かべた。

「へへ……びっくりした!」
「そうかい、それは良かった!さ、今日は遊びつくそうじゃないか」
「うん!」

 気落ちしてしまっていた少女が漸く楽しげな表情を戻したことで、周囲は人知れずほっと息をついた。やはり、この小さな主には笑顔が一番似合う。







 庭では楽しげな声が途絶えることなく続いていた。鶴丸と小夜は二人で雪だるまを量産しているようで、道を作りながら大小の雪玉をたくさん拵えている。

「小夜、頭は出来たかい?」
「出来た。乗せる?」
「あぁ!俺が乗せるから、小夜は他の材料を頼むぜ」
「わかった」

 燭台切と一期はかまくら作りに勤しんでいる。どうやら全員が入れる程の大きさを作っているようで、その規模は大きい。

「かまくらも、かっこよく作りたいよね!」
「流石は奥州にいただけあって手際が良いですな」
「作ったことはないけどね」
「でしょうな。しかし、成る程……水分を含ませながら作ることで強度が増すのですな」

 ふた組がそれなりの規模のものを作成している中、縁側の近くでひっそりと小さな雪うさぎを作っているのは少女と鶯丸と平野の三人だ。

「できた!」
「あぁ、可愛らしいうさぎさんですね」
「鶯丸のうさぎさん、おっきーね」
「そうだな。並べたら親子に見えるな」

 それぞれの手の大きさに合わせて作られた大中小の雪うさぎをトレイに並べて、少女は満足そうにえへへと笑う。

「ゆきだるまさんも、いっしょ!」
「小さいのにするのか?」
「うん」
「では、小振りな枝を取ってきますね」

 平野が枝を取りに離れている間に、少女と鶯丸で雪の団子を作り始めた。ぎゅっぎゅっと小さな手で雪を固めているのを横目に見て微笑ましく思いながら先にできた体の部分をトレイに乗せる。次いで、少女の作った小さく少し歪な団子がその上に乗せられた。目は、雪うさぎの時に使った赤い実。戻ってきた平野が持ってきた小枝を体に差して手に見立てて完成だ。

「まるで雪だるまが雪うさぎの家族を守っているようですね」

 仲良く並ぶ雪うさぎの親子の前に、その平穏を守るように立ちはだかる雪だるま。その言葉を聞いて、少女はじっとトレイに並ぶ雪の塊を眺めた。

「……いちばんおっきーのが、パパでね、つぎがママ。いちばんちいさいのがね、小梅だよ」

 一個一個指差して、そう言った。

「それでね、このゆきだるまさんがね、鶯丸だよ」
「……成る程、小梅様の家族を、鶯丸様が守っておられるのですね」
「うん!」

 平野の言葉に、少女はとびきり嬉しそうな笑顔を浮かべた。平野たちは、少女が審神者になる前のことを知らない。しかし時々、何かを思い出してそれに耐え切れず鶯丸にくっついて離れない時がある。何かあったのだろうとは思った。小さな少女には背負いきれないほどの何かが。それでも少女はこうして気丈に振る舞うから、いつか打ち明けてくれるまで待とうと思うのだ。

「喉が渇いてきたな、茶でも飲むか」
「では、僕が用意してきます」
「小梅もてつだう!」
「はい、ありがとうございます」







 少女たち三人が縁側でお茶を飲んで温まっている間も、他の彼らはせっせと作業を続けていた。お茶を用意したと声をかけてはみたがどうやら思った以上に熱中しているようで、その手は止まらない。おかげで敷き詰められていた雪が減って歩ける道が出来たわけだが。そして気が付いたら時間はどんどん過ぎていったようだ。

「ねー」
「はい、なんでしょうか」
「おなかすいた」
「……あぁ、もうそんな時間か」

 燭台切が未だ熱中している為、彼の手料理は見込めないだろう。出前をとっても良いが、せっかくだ。

「握り飯でも作るか」

 厨にきた三人はいそいそと昼餉の準備を始めた。普段から燭台切の手伝いをしている平野がてきぱきと一足先に作業を進める中、鶯丸は冷えてしまった少女の手を摩っていた。手袋をしていたとはいえ、雪をずっと触っていれば水分を吸って結局冷えてしまう。一回り以上も小さい少女の手を自分の手で包み、はーっと息を吹きかけては擦って温める。

「鶯丸様、蒸しタオルが出来ました」
「ありがとう」

 ホカホカと温まったタオルを受け取ると、それで少女の手を覆った。じんわりと伝わる暖かさに少女はほっと息をつく。

「あったかい」
「冷えていたから余計そう思うだろう。どうだ?」
「だいじょーぶ。ほら!」
「ふふ、確かに大丈夫だな」

 蒸しタオルから十分に熱をもらって温まった小さな掌を鶯丸の頬にぴたっと当てると、その手に擦り寄りながら微笑んだ。

「準備は出来ています。具材はこのくらいでいいでしょうか」
「十分だろう。それじゃあ始めようか」

 梅干、おかか、鮭、昆布、明太子……と様々な種類が並んだ具材と真っ白なほかほかご飯。それらを鶯丸と平野がてきぱきと握っていく。二人の間で少女も見よう見真似で小さな握り飯を作っていった。

「平野みたいにできない……」

 鶯丸の握り飯は丸いが、それでも形の整った綺麗な握り飯だった。対して平野の作る握り飯は三角形で、少女にとってはこちらの方が見慣れている。だから平野の真似をしようと頑張ってはいるが、どうしても平野のように綺麗な三角形を作ることが出来ず苦戦していた。

「では小梅様、こちらを使ってみましょう」

 平野が持ってきたのはプラスチックで出来たそれ。三角形に縁どられていて、真ん中にはぽっかりと穴があいている。それをラップの上に置いて、縁の内側にご飯を詰めていく。全部詰める途中で具材を入れて、更にそれを覆うようにご飯を被せて三角形の型を取ると、平野が作っているような綺麗な三角の握り飯が出来上がった。

「できたー!」
「お上手です、小梅様」
「出来たか?そろそろ持っていくとしよう。平野は茶を頼む」

 作った握り飯と新しい茶を持って戻ってみると、先程よりも作業は進んでいたようだったが、相変わらず熱中している四人の姿。まさかここまで熱中するとは、と鶯丸は何だかおかしくなった。

「ごはんー!たべよー!」

 お腹が空いて仕方がない少女はさっさと皆を大声で呼び出した。ご飯、と聞いて漸くはっとした四人が作業を中断して走り寄ってくる。

「うわぁ、ごめん!すっかりのめり込んじゃって……作ってくれたのかい?ありがとう」

 燭台切が申し訳なさそうに言いながら、それでも用意されたたくさんの握り飯を見て嬉しそうに笑った。

「握り飯か!中身はなんだい?」
「色々あるが、どれがどれかはわからん」
「それは楽しみですな」
「小夜っ、これ小梅がつくったよ!あげるっ」
「ありがとう」

 銀世界を眺めながら、わいわいと握り飯を頬張る。その数はどんどんと減っていき、皆の腹の中へと収まっていった。

「作っていたものは完成したのですか?」
「あぁ、俺と小夜が作ったものは完成したぜ」
「僕と一期くんが作っているのは明日完成かな」
「一晩置いて固めるようです」
「二つあるね」

 燭台切と一期が作っていたかまくらは未完成だったが今日出来る作業は完了したようで、大きく積まれた雪の塊が二つあった。一晩置いて更に固めて強度を増してから翌日中身をくり抜くようだ。
 鶴丸と小夜が作っていたのは雪だるま。しかし熱中していただけあってその数は一つだけではなく、大きさの違う雪だるまがずらりと並んでいる。しかもよく見れば7つあるその雪だるまは一つ一つ飾りが違うようだ。それを見て、少女がはたと気付いた。それは右から三つ目に並んだ大きめの雪だるま。右目の部分が落ち葉で隠されていて、それはまるで……燭台切の眼帯のようだった。

「ね、あれ光忠みたい!」

 その雪だるまを指差して言うと鶴丸が嬉しそうに笑った。小夜も心なしか嬉しそうに頬を染めている。

「お、よくわかったな!確かにあれは光忠だぜ」
「そーなの?」
「皆、いるよ」

 鶴丸と小夜が作っていた雪だるま。それは本丸にいる全員に模した作品だったようで、言われてみれば燭台切だと言われた雪だるま以外もそれぞれの特徴が出されているのがわかった。

「あぁ……だから私の外套を貸してほしいと仰っていたのですな」
「そうだ。貸してもらえなかったから別で代用したがな」

 流石に戦装束を貸してしまってはいざ出陣する際に困ってしまう。よって青い手拭いを外套に見立てて代用したらしい。なかなかにそれらしい。

「じゃあ、小梅は?」
「一番小さいのだよ」

 中心にいる一番小さな雪だるまが少女のようだ。その右隣は燭台切で、その反対側左隣は……

「じゃあ、じゃあっ、あれは鶯丸?となり!」
「そうだよ」
「わぁー!」

 少女はたまらず庭へ降りて雪だるまに向かって駆け出した。並んだ雪だるまの周りをぐるぐると走り回り、一個ずつ眺めては名前を呼んでいる。少女に遅れて他の皆も雪だるまの周りに集まってきた。

「それにしてもよく出来ているねぇ」
「刀を差したらもっとそれらしくなるだろうがな!」
「流石に刀は渡せませんよ」

 燭台切が感心したように言うと鶴丸が調子に乗ったが、速攻で一期が首を振って拒否を示す。

「ねぇ、これ、あしたもある?」
「あぁ、明日も冷えるだろうからな」
「そのつぎは?あしたのあしたは?ずーっとある?」

 鶯丸の服の裾をぎゅっと引っ張りながら少女が言う。

「暖かくなれば、溶けてなくなってしまうかな」
「えー……」

 景趣の固定、とやらをやればずっと冬のままで溶けることなく庭に存在しているだろうが、それはしない。いつかなくなってしまうと聞いて、少女はしょんぼりと肩を落とす。

「……また作ればいい。次の冬が来た時に、また皆で」

 同じものが同じ形でずっと残り続けることは難しいけれど。別の見方をすれば、それは思い出が重なって増えていくということだ。来年の今頃は、きっと新しい仲間がいることだろう。並ぶ雪だるまの数も、増えているのかもしれない。それを想像して、少女は嬉しそうに鶯丸を見上げて笑った。

「うん!また、みんないっしょね!」