「そういえば、もうすぐGWですね〜」
「そうだね。今年の合宿は楽しそう」
「わたしは初参加だぁ」
「あ、そっか。アリスちゃんはインハイ後に入ってくれたんだもんね」
「楽しみです〜」

 一枚のメニュー表を一緒に覗き込みながら、バレー部の花であるマネージャー二人は楽しげに話している。アリスは肩から下げたポシェットをぽすぽすと手で弾ませていると、サーブレシーブの練習をしていたコートから一際大きな声が響いた。

「んローリングッサンダァァァ!!!」

 運動部特有の掛け声が飛び交っていた体育館が一瞬静かになる。それを成した当の本人・西谷はとてもやりきったドヤ顔をしている。「…あっうん、ナイスレシーブー!」菅原の咄嗟のフォローが何だか虚しい。アリスはちらりと隣の潔子に視線を送ると、潔子は呆れたように首を振っていた。すると、側の扉ががたりと揺れ、開かれる。

「おつかれさまーっ」

 入ってきたのは顧問の武田だ。すぐさま練習を中断して澤村が集合をかける。マネージャーである二人も選手たちの後ろから控えて向かい合うと、心なしか武田の様子がそわそわと楽しげだ。

「皆、今年もやるんだよね?!GW合宿!!」

 武田が切り出したのは先程アリスたちが話していた話題だった。

「ハイ。まだまだ練習が足りないですから」

 武田の問いに、主将が力強く答える。と、武田は得意げに眼鏡をかけ直して「それでね…」と続けた。

「GW最終日、練習試合組めました!!」

 武田が告げた内容は、選手は勿論後ろで控えていたマネージャーをも驚かせるものだった。“今の烏野”と練習試合を組んでくれる学校とは。

「た、頼もしいな武ちゃん!どうしたっ」
「あ、相手は…!?」

 逸るように菅原が聞くと、武田は少し緊張した面持ちで答えた。

「東京の古豪、音駒高校」

(東京……ねこま……)
 東京という地名にアリスは僅かに反応した。

「音駒ってあの…ずーっと烏野と因縁のライバルだったっていう…?」
「うん!確か通称“ネコ”」

「…あぁ」
「? …あ、そういえばアリスちゃんは元々東京から来たんだったね」
「可愛い名前だなって記憶してました〜」
「アリスちゃんらしいね……」

 アリスは元々は東京生まれ東京育ちの都会っ子だった。中学までは東京の女子中学に通っており、色々あってアリスの高校入学を機に一家で宮城に越して来たのである。が、名前を知っているだけで烏野との関係性などは一切知らない。話す菅原達によれば、昔の監督同士がずっと昔からのライバル同士であり、よくお互い遠征を行っていたようだ。謂わば好敵手同士の戦いに、練習試合があれば必ずと言っていい程近所の者たちがその名勝負を見るために集まっていたようだ。
“猫対烏!ゴミ捨て場の決戦!”
 二校の試合は、そう呼ばれていた。

「因縁の再戦かぁ……」

 本当に、楽しみな合宿になりそうだ。







「学校に合宿施設があるって良いですね〜」
「アリスちゃんのとこではどうだったの?」
「よそで施設借りてましたよ〜」

 部活終了後、アリスは潔子と二人で帰宅しながら会話に花を咲かせていた。話題は勿論合宿のこと。

「合宿所に泊まるの?」
「その方が楽ですね〜」
「・・・・・・」

 アリスの答えに、潔子は少し難しそうな思案顔を浮かべた。黙り込んでしまった潔子に、アリスは不思議そうな視線を向ける。

「せんぱーい?」
「……合宿といえど、男所帯に女の子一人はダメ」
「ダメ」
「うん、ダメ」

 鸚鵡のように答えたアリスに、潔子は念を押した。

「でも先輩は泊まらないんですよねー?」
「うん。だからね、うちに泊まりなよ」

 潔子は嬉しそうに笑顔を浮かべていう。アリスは一度ぽかんとしたあと、直ぐにやんわりと目元を緩めた。

「はい、行きますっ」