第二セットは音駒のリードで始まった。日向が速攻に走るも、その動きに追いつく犬岡によってスパイクは止められてしまい得点力がダウン。

「ううう……」
「アリスちゃん、落ち着いてね」
「悔しいんです〜、でも日向に追いついちゃう7番ねこさんも凄いんです〜」
「それは複雑だね」

 悔しくて、でもわくわくした期待を隠せない複雑さで落ち着きがないアリスは肩から下げたポシェットの紐をギチギチと握り締めていた。
 勿論日向にだけではなく、東峰や田中といったパワースパイカーにもボールは集まるが、レシーブ力の高い音駒は悉くそれらを拾い、烏野の得点を許さない。見ている方もそうだが、実際にプレイしている選手たちはなかなか決まらないスパイクに焦れてきている。

「……日向、大丈夫かなぁ」
「うん……折角手に入れた武器が、封じられているもんね。対策が欲しいとこだけど……あっ」

 心配そうに言ったアリスに潔子が答える。名勝負に心を躍らせつつも、やはり願うのは烏野の勝利。その時、日向が持ち前の反射神経で犬岡を躱した。犬岡が足を踏み出した方と反対へと勢いよく体を反転させて飛ぶ。しかし、ぎりぎりのところで踏み込んだ犬岡が高く手を伸ばして日向のスパイクを叩き落した。何度飛んでも、何度打っても、追いつかれて止められる。日向の気力が挫かれてしまうのでは、とそろりと日向に視線を移したアリスは、途端ぞくりと背中が戦慄いた。
 気力を挫かれるどころか、心を折られるどころか。日向は、笑っていた。

「……なんか、鳥肌立っちゃいました」
「……………うん」

 日向の反応に目を瞠ったのはアリスだけではなかったようで、潔子も戸惑いのせいか反応が遅れていた。

 その後、なんとか音駒に追い縋るも日向のスパイクは決まらない。そんな中、日向がトスを見るという驚きの事態が起こり、それに慌てたように烏養がTOを取った。

「……トス見たやべーってなるって、そうそうないですよね〜」
「確かにね、普通は逆だもの」

 烏養が影山に何やら指示をしているのを聞きながら、アリスはじっと影山に目を向けた。確かに一番動きがトリッキーで変人じみているのは日向ではあるが、その自由奔放な日向の動きに合わせたトスを上げる影山の技術はやはり凄い。そしてそのトスを100%信じて、今まで目を閉じて打っていた日向も。きっと影山はどんなスパイカーにも上手く合わせていくのだろう。しかしあの神業のような超速攻は、日向だけにしか出来ないのだと思うと、少し羨ましく感じる。

「日向のバレーは、楽しいなぁ」

 でも下手だなぁ、と空振りのスパイクを繰り返す日向を見る。普通、目を瞑ったままの方が難しいだろうに、日向にとってはトスに合わせて打つということの方が難しいらしい。でもきっと普通の速攻も、あの超速攻もどちらも使いこなすことが出来たなら。

「あ〜もう、さいっこーに楽しいです〜」

 とは言いつつも失点は失点。烏野の得点は動かず、音駒の得点が二桁に乗ったところで二回目のTOとなった。自分のスパイクミスで度重なる失点を犯した日向が謝るも、それを責める者は居なかった。……いや、唯一月島は捻くれた脅しを仕掛けていたが。しかし東峰せんぱい、点は俺達が取り返すだなんて頼もしいことを言ってくれる。

「大地!旭にプレッシャーかけんなよ!傷ついちゃったらどうするんだ!」
「そうですよ!ガラスのハートなんだから!」
「…………」
「もうやめてあげて!」
「え?エースが勝利に導いてやるって?」
「東雲追い打ち!」

 何だか楽しい掛け合いをしているなと思って菅原と西谷に混ざって茶化してみた。東峰の背中には若干の哀愁が感じられる。相変わらず打たれ弱い。

 しかしその後、点を取り返すという頼もしい宣言通りに広がっていた点差を埋めるように東峰たちが得点を決めていき、烏野の得点も二桁へ乗った。点差三点といったところまで追い縋るも、日向のここ一番のフルスイングでの空振りがお見舞いされ、烏野側の落胆は勿論、音駒からも動揺の反応が見られた。しかしスカッたボールはコートに落ちることはなかった。

「ふわぁ〜、澤村せんぱいナイスフォローです〜!」

 澤村のおかげで繋がったボールは相手コートに返り、今度はモヒカンねこ基、山本のスパイクを三枚揃った烏野のブロックが叩き落す。が、またもなおそのボールは海によって繋がれた。

「お、お?おぉっ…!」
「アリスちゃん落ち着いて」

 拍手を送りたくなるような素晴らしいナイスフォローが立て続けに行われ、興奮せずにいられるか。と言わんばかりにアリスが身を乗り出せば、潔子によって宥められる。二回目だ。
 残念ながら再度攻撃のチャンスを得た音駒の得点になってしまったが、いつも以上に気合の入った田中が負けじとスパイクを決め、山本のブロックを吹っ飛ばした。

「なんか、田中めちゃくちゃモヒカンねこさんにメラメラしてますね〜」
「(モヒカン猫……)対抗意識燃やしてる感じがするね。多分、田中以外も」

 日向と犬岡。田中と山本。西谷と夜久。澤村と海。影山と孤爪……は、影山が一方的な感じは否めない。しかし、互いが互いを意識しているのがコート外でもわかった。

「えへへ、いい空気です〜」